債権法改正 要綱仮案 情報整理

第17 多数当事者

2 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(4) 連帯債務者の一人についての時効の完成(民法第439条関係)

ア 民法第439条を削除するものとする。
イ 連帯債務者の一人についての時効の完成について、次のような規律を設けるものとする。
  連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、時効が完成した連帯債務者に対し、4(1)又は(3)により求償の請求をすることができる。

中間試案

3 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(2) 更改,相殺等の事由(民法第435条から第440条まで関係)
 民法第435条から第440条まで(同法第436条第1項を除く。)の規律を次のように改めるものとする。
 ア 連帯債務者の一人について生じた更改,免除,混同,時効の完成その他の事由は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してその効力を生じないものとする。

(概要)

 本文アは,連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関して,援用された相殺を絶対的効力事由としている民法第436条第1項の規律は維持した上で,更改(同法第435条),債務の免除(同法第437条),混同(同法第438条)及び時効の完成(同法第439条)を絶対的効力事由としている現行法の規律を改め,当事者間(債権者と絶対的効力事由を及ぼし合う全ての連帯債務者との間)に別段の合意がある場合を除いてこれらが相対的効力事由(同法第440条)であるとするものである。連帯債務は,一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有するとされているところ,上記のような絶対的効力事由が広く存在することに対して,この担保的機能を弱める方向に作用し,通常の債権者の意思に反するという問題点が指摘されていることによる。
 なお,法律の規定により連帯債務とされる典型例である共同不法行為者が負担する損害賠償債務(民法第719条)については,共同不法行為者間には必ずしも主観的な関連があるわけではなく,絶対的効力事由を認める基礎を欠くという理論的な理由のほか,被害者の利益保護の観点から連帯債務の担保的機能を弱めることが適当ではないという実際上の理由から,絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がない「不真正連帯債務」に該当するとされている(最判昭和57年3月4日判時1042号87頁)。本文アは,前記(1)とともに,判例上の不真正連帯債務に関する規律を原則的な連帯債務の規律として位置づけるものである。

赫メモ

 民法439条は、連帯債務者の一人について時効が完成した場合には、その時効が完成した連帯債務者の負担部分の限度で絶対的効力を生ずるとするが、今日の取引では連帯債務における債権の効力の強化する側面が重視されていることに鑑みると、負担部分を基礎とする絶対的効力事由には問題があるとの指摘がなされていた。そこで、要綱仮案アでは、民法439条を削除し、連帯債務者の一人についての時効の完成が他の連帯債務者に対する効力を有しないという立場を採るものである(部会資料67A、10頁)。
 また、時効の相対効を前提とすると、他の連帯債務者は、時効が完成した連帯債務者に対して求償することができるものと解されるが、この点について根拠となる規定がないことから、要綱仮案イではこれを明記することとしたものである(部会資料83-2、14頁)。

現行法

(連帯債務者の一人についての時効の完成)
第439条 連帯債務者の一人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【連帯債務について消滅時効が完成した債務者に対して,他の連帯債務者は求償できる】東京地裁平成20年6月13日判決・判時2029号60頁
 B1(銀行)とB2(生保)の共同不法行為(変額保険の勧誘)により,Aに損害が発生し,B1がこれを賠償した。B1からB2に対する求償。なお,B2のAに対する損害賠償債務は時効消滅している。
 民法719条の共同不法行為者間においては,民法434条から439条までの規定は適用されず,共同不法行為者の一人に対する損害賠償債務の消滅時効が完成したとしても,被害者に対して損害賠償債務を履行した他の共同不法行為者からの求償は妨げられないと解される。なぜなら,共同不法行為者間の求償権は,公平の観点に基づき,被害者に対して損害賠償債務を履行することによって発生する権利であって,被害者が有する損害賠償請求権とは別個独立の権利であるから,共同不法行為者の一方に対する消滅時効が完成したことが求償権の存否に影響を与えるものとはいえないうえ,被害者の有する損害賠償請求権の消滅時効完成前にある共同不法行為者が被害者から請求を受けた場合,これを履行したときは他の共同不法行為者に対し,損害賠償債務の消滅時効完成後であっても求償することができるとすることが,ひいては円滑な被害者の救済にも資することからである。