債権法改正 要綱仮案 情報整理

第17 多数当事者

2 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(5) 相対的効力の原則(民法第440条関係)

 民法第440条の規律を次のように改めるものとする。
 連帯債務者の一人について生じた事由は、民法第435条、第436条第1項及び第438条に規定する場合を除き、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。

中間試案

3 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(2) 更改,相殺等の事由(民法第435条から第440条まで関係)
 民法第435条から第440条まで(同法第436条第1項を除く。)の規律を次のように改めるものとする。
 ア 連帯債務者の一人について生じた更改,免除,混同,時効の完成その他の事由は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してその効力を生じないものとする。

(注)上記アのうち連帯債務者の一人について生じた混同については,その連帯債務者の負担部分の限度で他の連帯債務者もその債務を免れるものとするという考え方がある。

(概要)

 本文アは,連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関して,援用された相殺を絶対的効力事由としている民法第436条第1項の規律は維持した上で,更改(同法第435条),債務の免除(同法第437条),混同(同法第438条)及び時効の完成(同法第439条)を絶対的効力事由としている現行法の規律を改め,当事者間(債権者と絶対的効力事由を及ぼし合う全ての連帯債務者との間)に別段の合意がある場合を除いてこれらが相対的効力事由(同法第440条)であるとするものである。連帯債務は,一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有するとされているところ,上記のような絶対的効力事由が広く存在することに対して,この担保的機能を弱める方向に作用し,通常の債権者の意思に反するという問題点が指摘されていることによる。
 なお,法律の規定により連帯債務とされる典型例である共同不法行為者が負担する損害賠償債務(民法第719条)については,共同不法行為者間には必ずしも主観的な関連があるわけではなく,絶対的効力事由を認める基礎を欠くという理論的な理由のほか,被害者の利益保護の観点から連帯債務の担保的機能を弱めることが適当ではないという実際上の理由から,絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がない「不真正連帯債務」に該当するとされている(最判昭和57年3月4日判時1042号87頁)。本文アは,前記(1)とともに,判例上の不真正連帯債務に関する規律を原則的な連帯債務の規律として位置づけるものである。
 以上に対し,連帯債務者の一人について生じた混同については,その連帯債務者の負担部分の限度で他の連帯債務者もその債務を免れるものとするという考え方があるので,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 要綱仮案本文は、民法440条と同様に、特段の規定がある場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は原則として他の連帯債務者に対して効力を生じないという相対的効力の原則を規律している。特段の規定は、更改、相殺、及び、混同の場合について設けられている。
 要綱仮案ただし書は、履行の請求、免除、時効の完成など、これまで絶対的効力を有することとされていた事由が相対的効力のみを有することとなったため、当事者の合意によって絶対的効力を有することとすることができる旨、合意が必要な当事者は、その事由が効力を有するかどうかが問題となる他の連帯債務者と債権者とすることを規律するものである。なお、絶対的効力とする旨の当事者の合意は、個々の事由の発生に際して当事者が効力に関する合意をする場合と、個々の事由の発生とは別に一般的に当事者が合意をする場合があり得るが、要綱仮案の規律は後者に関わるものである。

【コメント】
 連帯債務者の一人に生じた事由は、他の連帯債務者にとって有利なもの(更改、免除、時効の完成等の債務消滅事由)と不利なもの(履行の請求)があるが、このうち、有利なもの、すなわち債務消滅事由についてまで、他の連帯債務者との合意を要するものとすべきであったかは、疑問が残る。弁済があれば絶対的効力が生じるのは疑いのないところだが、債権者において、ある連帯債務者に生じた事由につき、弁済があったのと同じように扱うとの意思があるときには、当該連帯債務者との合意のみで、その意思に従った効果を生じさせることのほうが私的自治に資するものであろう。

現行法

(相対的効力の原則)
第440条 第四百三十四条から前条までに規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。

(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
第434条 連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。

(連帯債務者の一人との間の更改)
第435条 連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。

(連帯債務者の一人による相殺等)
第436条 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
2 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。

(連帯債務者の一人に対する免除)
第437条 連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。

(連帯債務者の一人との間の混同)
第438条 連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。

(連帯債務者の一人についての時効の完成)
第439条 連帯債務者の一人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【不真正連帯債務において,混同は絶対的効力事由ではない】最高裁昭和48年1月30日判決・判時695号64頁
  B1・B2夫婦(死亡,運転者)・B3(自動車の所有者)が運行供用者となった自動車事故でB1・B2の子Aが被害を受けた。
  B1・B2・B3の運行供用者としての責任は,各自の立場において別個に生じ,ただ同一損害の填補を目的とする限度において関連するにすぎないのであって,いわゆる不真正連帯の関係に立つものと解される。不真正連帯債務の債務者相互間には右の限度以上の関連性はないのであるから,債権を満足させる事由以外には,債務者の一人について生じた事項は他の債務者に効力を及ぼさないものというべきであって,不真正連帯債務には連帯債務に関する民法438条の規定の適用はない。したがって,B1・B2とAとの間に混同を生じ,B1・B2の債務が消滅したとしても,B3の債務にはなんら影響を及ぼさない。

A 【共同不法行為者の1名及び被害者を相続した者が他の共同不法行為者に対して賠償を求めることができるのは,他の共同不法行為者の負担割合の部分に限られる,とした事例】高松高裁平成16年11月24日判決・判タ1213号119頁
  B1(設備管理者)の瑕疵とB2(自動車運転手)の過失により,B2及びAが死亡した。AとB2の相続人A´兼B2´がB1に対して賠償を求めた。負担割合はB1:B2が7:3である。
  一方の共同不法行為者B1が,他方の共同不法行為者B2及びAを相続した者A´兼B2´に対して,共同不法行為者間における自己の負担部分30%を超えて損害を賠償すれば,直ちにA´兼B2´に対して自己の負担部分を超える部分につき求償権を取得することになる場合には,A´兼B2´がB1に対して損害の賠償を請求できるのは,B1の負担部分に限られると解するのが相当である。なぜなら,このような場合にまで,A´兼B2´がB1に対してB1の負担部分を超える部分につき賠償請求をするのは,いたずらにB1に負担を強いるものであり,不合理であって,信義誠実の原則に反するというべきであるからである。