債権法改正 要綱仮案 情報整理

第17 多数当事者

4 連帯債務者間の求償関係
(1) 連帯債務者間の求償権(民法第442条第1項関係)

 民法第442条の規律を次のように改めるものとする。
ア 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した金銭その他の財産の額のうち各自の負担部分について求償権を有する。ただし、当該財産の額が共同の免責を得た額を超える場合には、その免責を得た額のうち各自の負担部分に限る。
イ アによる求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。(民法第442条第2項と同文)

中間試案

4 連帯債務者間の求償関係
 (1) 連帯債務者間の求償権(民法第442条第1項関係)
   民法第442条第1項の規律を次のように改めるものとする。
  ア 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,自己の負担部分を超える部分に限り,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有するものとする。
  イ 連帯債務者の一人が代物弁済をし,又は更改後の債務の履行をして上記アの共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,出えんした額のうち自己の負担部分を超える部分に限り,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有するものとする。

(注)他の連帯債務者に対する求償権の発生のために自己の負担部分を超える出えんを必要としないものとする考え方がある。

(概要)

 本文アは,連帯債務者間の求償について規定する民法第442条の文言からは,他の連帯債務者に対する求償権の発生のために自己の負担部分を超える出えんをする必要があるかどうかが明確でないことから,これについて,判例法理(大判大正6年5月3日民録23輯863頁)と異なり,自己の負担部分を超える出えんをして初めて他の連帯債務者に対して求償をすることができるとするものである。これは,負担部分は各自の固有の義務であるという理解に基づくものであり,不真正連帯債務者間の求償に関する判例法理(最判昭和63年7月1日民集42巻6号451頁参照)と同一の規律となる。他方,本文イは,連帯債務者の一人が代物弁済をしたり,更改後の債務の履行をしたりした場合の求償関係について,本文アの特則を定めるものである。このような場合には,当該連帯債務者が出えんした額と共同の免責を得た額とが必ずしも一致しないことから,本文アのみでは,どの範囲で求償することが可能であるかが判然としないからである。
 以上に対し,上記判例法理のとおり,他の連帯債務者に対する求償権の発生のために自己の負担部分を超える出えんを必要としないものとする考え方があり,これを(注)で取り上げている。
 なお,この中間試案では差し当たり「出えん」という文言を用いているが,この文言は平成16年の民法現代語化の際に他の文言に置き換えられているので,条文化の際には,適当な用語に改める必要がある。

赫メモ

 判例は、連帯債務者の一人が一部弁済をした場合に、それが自己の負担部分に満たないときであっても他の連帯債務者に対して各自の負担部分の割合に応じた求償をすることができるとしている(大判大正6年5月3日)。要綱仮案ア本文は、この判例法理を明文化するものである。
 なお、中間試案では、自己の負担部分を超える出捐をしてはじめて他の連帯債務者に対して求償することができるとする不真正連帯債務についての判例(最判昭和63年7月1日)を明文化するものとされたが、一部求償を認めるほうが各債務者の負担を公平に資するし、そのほうが弁済が促進される等の指摘があったことから、真正連帯債務の判例を明文化することとされた。
 また、一般には、代物弁済等をした連帯債務者は、出捐額が共同免責額以下であるときには出捐額が基準となり、その出捐額が共同免責額を超える場合にはその共同免責額が基準となると考えられており、この点について異論は見られない。要綱仮案アただし書は、この一般的解釈を明文化するものである。
 要綱仮案イは、民法442条2項と同文である。

現行法

(連帯債務者間の求償権)
第442条 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【負担部分以下の弁済であっても,求償権は発生する】大審院大正6年5月3日判決・民録23輯863頁
  B1・B2・B3がAに対して12,000円の連帯債務を負担していたところ(負担割合は平等で,4,000円),B1が3,000円を出捐して,6,000円債務について免責を得た。B1がB2・B3に対して1,000円ずつの求償を求めた。
  負担部分は債務額のすべてを通して存するものであるから,債務の一部の中にも負担部分に属する部分があるのは当然である。

A 【不真正連帯債務の場合,求償権は自己の負担部分を超える弁済をした場合に発生する】最高裁昭和63年7月1日判決・民集42巻6号452頁
  B1とB2の共同不法行為(過失割合は,B1が2,B2が8)によって,Aらに30万円の損害を与え,B1がこの全額を弁償した。B1は,B2の使用者であるB2’に対して,30万円全額の求償を求めた。
  被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合,第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められた自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは,第三者は,被用者の負担部分について使用者に対し求償することができる。なぜなら,使用者の損害賠償責任を定める民法715条1項の規定は,使用者が被用者の活動によって利益をあげる関係にあることに着目し,利益の存するところに損失をも帰せしめるとの見地から,被用者が使用者の事業活動を行うにつき他人に損害を加えた場合には,使用者も被用者と同じ内容の責任を負うべきものとしたものであって,この規定の趣旨に照らせば,被用者が使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合には,使用者と被用者とは一体をなすものとみて,第三者との関係においても,使用者は被用者と同じ内容の責任を負うべきものと解すべきであるからである。B1は,30万円のうち,自己の負担部分である6万円を超える24万円について,B2の使用者でありB2’に対して求償することができる。

B 【不真正連帯債務の場合,求償権は自己の負担部分(被用者の過失の割合に相当する額)を超える弁済をした場合に発生
する】最高裁平成3年10月25日判決・民集45巻7号1173頁
  事業所内で,B1’の被用者B1(クレーンの運転手)とB2’の被用者B2(玉掛け作業者)との共同過失によって事故が発生し,B1’が損害賠償を履行し,B2’に対して求償した。
  複数の加害者の共同不法行為につき,各加害者を指揮監督する使用者がそれぞれ損害賠償責任を負う場合においては,一方の加害者の使用者と他方の加害者の使用者との間の責任の内部的な分担の公平を図るため,求償が認められるべきであるが,その求償の前提となる各使用者の責任の割合は,それぞれが指揮監督する各加害者の過失割合に従って定めるべきものであって,一方の加害者B1の使用者B1’は,当該加害者B1の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは,その超える部分につき,他方の加害者B2の使用者B2’に対し,当該加害者B2の過失割合に従って定められる負担部分の限度で,右の全額を求償することができる。