債権法改正 要綱仮案 情報整理

第17 多数当事者

4 連帯債務者間の求償関係
(2) 連帯債務者間の通知義務(民法第443条関係)

 民法第443条の規律を次のように改めるものとする。
ア 他の連帯債務者があることを知りながら、連帯債務者の一人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、その連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
イ 他の連帯債務者があることを知りながら、連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た他の連帯債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。

中間試案

4 連帯債務者間の求償関係
 (2) 連帯債務者間の通知義務(民法第443条関係)
  民法第443条第1項を削除し,同条第2項の規律を次のように改めるものとする。
  連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,その連帯債務者が,他に連帯債務者がいることを知りながら,これを他の連帯債務者に通知することを怠っている間に,他の連帯債務者が善意で弁済その他共同の免責のための有償の行為をし,これを先に共同の免責を得た連帯債務者に通知したときは,当該他の連帯債務者は,自己の弁済その他共同の免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。

(概要)

 まず,連帯債務者間の事前の通知義務について定めた民法第443条第1項について,履行の請求を受けた連帯債務者に対して,その履行を遅滞させてまで他の連帯債務者に事前の通知をする義務を課すのは相当でないという問題点の指摘を踏まえ,これを削除することとしている。その上で,事後の通知義務に関する同条第2項の規律を改め,先に弁済等をした連帯債務者が他の連帯債務者に対して事後の通知をする前に,当該他の連帯債務者が弁済等をし,これを先に弁済等をした連帯債務者に対して通知した場合には,後に弁済等をした連帯債務者は,自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしている。これは,同条第1項を削除した上で同条第2項の規律をそのまま維持した場合には,先に弁済等をした連帯債務者と後に弁済等をした連帯債務者のいずれもが事後の通知を怠ったときに,後に弁済等をした連帯債務者の弁済等が有効とみなされるという不当な結果が生じ得ることによる。

赫メモ

 要綱仮案アは、民法443条1項を維持することを前提に、他の連帯債務者があることを知らないにもかかわらず、通知をしなければ求償の範囲が制限されるのは相当ではないから、他の連帯債務者があることを知っていることを通知義務の要件とするものである。また、請求があったことを通知するのではなく、弁済をすることをあらかじめ通知するのが妥当であるので、この点も従前の規律を改めている。
 要綱仮案イは、民法443条2項を維持することを前提に、他の連帯債務者があることを知らないにもかかわらず、通知をしなければ求償の範囲が制限されるのは相当ではないから、他の連帯債務者があることを知っていることを通知義務の要件とするものである。

【コメント】
 要綱仮案の規律のもとでも、最判昭和57年12月17日の判例法理は維持されるものと解される。

現行法

(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
第443条 連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、過失のある連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
2 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た連帯債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【民法443条2項の効果を主張するためには,1項の通知をしておくことが必要である】最高裁昭和57年12月17日判決・民集36巻12号2399頁
 B1・B2がAに対して5600万円の連帯債務を負担していたところ,B1が全額を代物弁済したが,B2に対する事前・事後の通知はなされず,その後,B2が,事前・事後の通知なく200万円を弁済し,さらに,事前・事後の通知なく800万円を弁済した(ただし,この時点においてはB1の行方が分からなかったことが理由である)。B1からB2に対する2800万円の求償がなされた。原審は,800万円について民法443条2項の免責を認めた。
 連帯債務者の一人が弁済その他の免責の行為をするに先立ち,他の連帯債務者に通知することを怠った場合は,既に弁済しその他共同の免責を得ていた他の連帯債務者に対し,民法443条2項の規定により自己の免責行為を有効であるとみなすことはできない。443条2項は,1項の規定を前提とするものであつて,1項の事前の通知につき過失のある連帯債務者までを保護する趣旨ではないからであるとして,B1の上告棄却。