債権法改正 要綱仮案 情報整理

第17 多数当事者

5 不可分債務

 民法第430条の規律を次のように改めるものとする。
 連帯債務の規定(民法第438条の規定を除く。)は、債務の目的がその性質上不可分である場合について準用する。

中間試案

1 債務者が複数の場合
 (2) 同一の債務について数人の債務者がある場合において,当該債務の内容がその性質上不可分であるときは,各債務者は,不可分債務を負担するものとする。

5 不可分債務
 (1) 民法第430条の規律を改め,数人が不可分債務を負担するときは,その性質に反しない限り,連帯債務に関する規定を準用するものとする。
 (2) 民法第431条のうち不可分債務に関する規律に付け加えて,不可分債務の内容がその性質上可分となったときは,当事者の合意によって,これを連帯債務とすることができるものとする。

(概要)

 本文1(2)は,債務の内容が性質上不可分である場合には,各債務者は,専ら不可分債務を負担するものとしている。これにより,連帯債務と不可分債務とは,内容が性質上可分か不可分かによって区別されることになる。現行法の下では,内容が性質上可分であっても当事者の意思表示によって不可分債務にすることができると解されているが(不可分債権に関する民法第428条参照),本文では,これを連帯債務に分類するものとしている。

 本文5(1)は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力が相対的効力を原則とするものに改められる場合には(前記3参照),不可分債務と連帯債務との間の効果の面での差異が解消されることから,不可分債務について,その性質に反しない限り,連帯債務に関する規定を準用するとするものである。
 本文5(2)は,不可分債務の債権者及び各債務者は,不可分債務の内容が不可分給付から可分給付となったときに,当事者の合意によって当該債務が連帯債務となることを定めることができるとするものである。これは,不可分債務が可分債務となったときは,各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負うと規定する民法第431条について,不可分債務の担保的効力を重視していた債権者の意思に反する場合があるという問題点が指摘されていることによる。

赫メモ

 要綱仮案では、連帯債務について、債務者の一人に生じた事由の効力の一部を、絶対的効力から相対的効力に改め、連帯債務に関する規定の内容と不可分債務に関する規定の内容が類似してくることから、給付は可分であるが意思表示によって不可分とする余地を残すことの実質的な必要性はなくなり、むしろこれを残すことが無用な混乱を来すとの判断のもと、不可分給付は性質上不可分である場合にのみ生ずる前提をとる。そのうえで、請求、混同、時効完成については現状の相対効(民法429条2項)を維持し、更改については現状の429条1項の効力を絶対効に改め、免除については現状の429条1項の効力を相対効に改めることとし、規定の体裁としては、連帯債務の規定を準用することとした。なお、不可分債務を性質上不可分の給付の場合に限定すると、相殺の事由が生じることは考えにくいことになる(部会資料67A、21頁)。

【コメント】
 審議の経緯に照らすと、賃借権を共同相続した場合の賃料支払債務を、各賃借人が目的物全部の使用収益をなし得ることを根拠に、性質上不可分債務と解すべきものとする大判大正11年11月24日が、要綱仮案のもとで維持されるか否かは解釈に委ねられており、金銭債務であると直ちに、債務の目的が性質上不可分である場合に該当しないものとされるわけではないように思われる。

現行法

(不可分債務)
第430条 前条の規定及び次款(連帯債務)の規定(第四百三十四条から第四百四十条までの規定を除く。)は、数人が不可分債務を負担する場合について準用する。

(不可分債権)
第428条 債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。

(不可分債権者の一人について生じた事由等の効力)
第429条 不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても、他の不可分債権者は、債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては、その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与される利益を債務者に償還しなければならない。
2 前項に規定する場合のほか、不可分債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、他の不可分債権者に対してその効力を生じない。

(連帯債務者の一人との間の混同)
第438条 連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【移転登記義務は不可分債務】最高裁昭和36年12月15日判決・民集15巻11号2865頁  
  BがAに売却した不動産について,Bが死亡しB1らが共同相続したところ,AはB1のみを被告として,移転登記手続を請求した。
  所有権移転登記義務は,いわゆる不可分債務であり,複数の相続人がいても,その一人に対して登記義務の履行を請求することができ,固有必要的共同訴訟ではない。

A 【建物の収去義務は不可分債務】最高裁昭和43年3月15日判決・民集22巻3号607頁
  Aがその所有地上にある建物の相続人の一部B1らに対して建物収去土地明渡訴訟を提訴した。
  建物の所有者である共同相続人らの建物収去土地明渡義務は,いわゆる不可分債務であるから,B1らは,各自係争物件の全部についてその侵害行為の全部を除去すべき義務を負う。

B 【売買の目的物が不可分でない場合の売買代金債務は不可分債務ではない】最高裁昭和45年10月13日判決・判時614号46頁
  AがB1・B2に対して杉丸太1300?を売却し,B1に対して代金の全額の支払いを求めた。
  この契約は,B1・B2を共同買主とする売買契約であるが,その目的物については性質上又は特約により不可分性は認められず,買主の可分債務となる。