債権法改正 要綱仮案 情報整理

第18 保証債務

6 保証人保護の方策の拡充
(1) 個人保証の制限

 個人保証の制限について、次のような規律を設けるものとする。
ア 保証人が法人である場合を除き、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前1箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
イ アの公正証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。
 (ア) 次に掲げる保証契約を締結し、保証人になろうとする者が、それぞれ次に定める事項を公証人に口授すること。
  a 保証契約(bを除く。) 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに当該主たる債務者が債務を履行しないときには、当該債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか又は他に保証人がいるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
  b 根保証契約 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、保証契約における極度額、元本確定期日の有無及びその内容並びに当該主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度で元本確定期日又は5(2)ア若しくはイに掲げる事由が生じた時までに生じた主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか又は他に保証人がいるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
 (イ) 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。
 (ウ) 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
 (エ) 公証人が、その証書は(ア)から(ウ)までに掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
(注)保証人になろうとする者が口をきけない者である場合又は耳が聞こえない者である場合については、民法第969条の2を参考にして所要の手当をする。
ウ ア及びイの規定は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)に準用する。
エ 次に掲げる者が保証人である保証契約については、アからウまでの規定は、適用しない。
 (ア) 主たる債務者が法人その他の団体である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
 (イ) 主たる債務者が法人である場合のその総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者
 (ウ) 主たる債務者が個人である場合の主たる債務者と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者

中間試案

6 保証人保護の方策の拡充
 (1) 個人保証の制限
   次に掲げる保証契約は,保証人が主たる債務者の[いわゆる経営者]であるものを除き,無効とするかどうかについて,引き続き検討する。
  ア 主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が含まれる根保証契約であって,保証人が個人であるもの
  イ 債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約であって,保証人が個人であるもの

(概要)

 保証契約は,不動産等の物的担保の対象となる財産を持たない債務者が自己の信用を補う手段として,実務上重要な意義を有しているが,その一方で,個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たないことから,原則として個人保証を無効とする規定を設けるべきであるなどの考え方が示されている。これを踏まえ,民法第465条の2第1項にいう貸金等根保証契約(本文ア)と,事業者の貸金等債務(同項参照)を主たる債務とする個人の保証契約(本文イ)を適用対象として個人保証を原則的に無効とした上で,いわゆる経営者保証をその対象範囲から除外するという案について,引き続き検討すべき課題として取り上げている。適用対象とする保証契約の範囲がアとイに掲げるものでよいかどうか(例えば,イに関しては,債務者が事業者である債務一般を主たる債務とする保証契約であって,保証人が個人であるものにその範囲を拡大すべきであるという意見がある。),除外すべき「経営者」をどのように定義するか等について,更に検討を進める必要がある。

赫メモ

 保証契約は、不動産等の物的担保の対象となる財産を持たない債務者が自己の信用を補う手段として実務上重要な意義を有している。しかし、保証契約は個人的情義等から無償で行われることが通例である上、保証契約の際には保証人が現実に履行を求められることになるかどうかが不確定であることから、保証人において自己の責任を十分に認識していないまま安易に契約が結ばれる場合も多い。そのため、個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たない。
 保証人にとって過酷な結果を招くという問題が最も深刻に生じているのは、主たる債務者が事業のための資金を借り入れた債務の保証についてである。事業のための資金の借入れは、主債務者が法人であろうと自然人であろうと、多額になりがちだからである(部会資料70A、6頁)。
 そこで要綱仮案は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする個人保証及び主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる個人根保証については、原則として、保証意思を確認するための厳格な手続を経ることによってのみ有効に保証契約を締結することができるものとするものである。また、例外的に、情誼に基づかずに保証をなし得、保証契約を締結するリスクについて合理的な判断が可能な地位にある者については、厳格な手続を経る必要がないとの考え方から、要綱仮案エでは、主債務者と一定の関係にある者について、上記の規制を設けないこととしている。

【コメント】
 個人保証には、情誼性、未必性といった特質があり、軽率になされやすいことから、その意思は類型的に真意に基づかない可能性が高いものといえる。要綱仮案では、かかる前提認識に立って、保証意思を確認するための厳格な手続を設けたものと捉えることができる。
 厳格な手続が課されない例外として、法人が主債務者である場合のその取締役等や過半数の株式を有する株主等、個人が主債務者である場合の共同事業者やその事業に現に従事している主債務者の配偶者が掲げられている。要綱仮案が、規制の趣旨に対して例外範囲を適切に設定できているかは疑問であり、法人の取締役等については代表者に限定すべきであったし、共同事業者の実質を有さない配偶者が含まれうる点も問題というほかない。
 ところで、保証人保護の根拠を、保証意思の脆弱性に求める限り、その保護の規律の態様は意思確認の厳格化にとどまり、保証禁止(無効)には行き着かない。個人保証が制限されるべき理論的な根拠は、むしろ、消費者契約における不当条項に該当する点(債権者が、デフォルトルールでは自ら負担すべき主債務者の債務不履行時のリスクを、主債務者の働きかけに基づく保証の意思形成に問題が多いことに乗じて保証人に転嫁することは、信義則に反して消費者たる保証人の利益を一方的に害することになる点)に求められるべきであり、将来的には、個人保証は、情誼性に由来する前近代的なものとして広く無効化されるべきであろう(ビジネスとして行なう事業者保証、現有資産の裏付けをもってする個人の物上保証が認められれば十分である)。

現行法


関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【連帯保証人に対する保証債務の履行請求が信義則に反し権利濫用になるとされた事例】最高裁昭和48年3月1日判決・金法679号35頁
  BのA(信用金庫)に対する借入債務をCが極度額を700万円と定めて連帯保証していたところ,3年後に,担保物件第三者に売却され,Bの経営状態が悪化し,Aもその事情を了知しうる状態にあったにもかかわらず,金融機関としてなすべき注意を怠り,ACの意向を確認しないまま,AがBに対してα780万円を貸し付けた。
  右事実関係のもとにおいて,Aが期間の定めのない継続的保証契約に基づき,貸付αについてCに対し保証債務の履行を求めるのは,信義則に反し権利の濫用であって許されないとした認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができないものではない。

A 【連帯保証人に対する保証債務の履行請求が権利濫用になるとされた事例】最高裁平成22年1月29日判決・判時2071号38頁
  Aのグループ会社Bに対する400万円の貸付(金利は年18%)について連帯保証したB社の社長Cに対する保証債務履行請求事件である。なお,Cは,平成15年にアルバイトとしてB社に入社し,平成16年に正社員となり,平成17年に社長に就任したものである。その直後に連帯保証人となり,すぐに辞任の申出をしている。
  BはAグループに対して売上高の66%を経営顧問委託料として支払っておりAグループは傘下の会社から確実に収入を得ることができる体制が周到に築かれていたこと,CはAグループから強力な指示を受けており代表者としての裁量の余地はなく,単なる従業員とほとんど同じであったこと,AグループはBが近々資金繰りに窮することを知っていながらCに連帯保証を求め,Cは事実上これを拒絶することが困難であったことから考えると,Cに対する保証債務の履行請求は,B社が既に事業を停止している状況の下において,Aグループに属する各社がM社の事業活動から経営顧問契約等の各種契約に基づき顧問料等の名目で確実に収入を得ていた一方で,わずかの期間同社の代表取締役に就任したとはいえ,経営に関する裁量をほとんど与えられていない経営体制の下で,経験も浅く若年の単なる従業員に等しい立場にあったCだけに,B社の事業活動による損失の負担を求めるものといわざるを得ず,CがB社の代表取締役に就任した当時のB社の経営状況,就任の経緯,AのB社に対する金員貸付けの条件,Cは保証契約の締結を拒むことが事実上困難な立場にあったことなどをも考慮すると,権利の濫用に当たり許されないものというべきである。