債権法改正 要綱仮案 情報整理

第19 債権譲渡

1 債権の譲渡性とその制限(民法第466条関係)
(1) 譲渡制限の意思表示の効力

 民法第466条第2項の規律を次のように改めるものとする。
ア 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下この第19において「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
イ アに規定する場合において、譲渡制限の意思表示があることを知り、又は重大な過失によって知らなかった第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができるほか、譲渡人に対する弁済その他の当該債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。

中間試案

1 債権の譲渡性とその制限(民法第466条関係)
 民法第466条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 債権は,譲り渡すことができるものとする。ただし,その性質がこれを許さないときは,この限りでないものとする。
 (2) 当事者が上記(1)に反する内容の特約(以下「譲渡制限特約」という。)をした場合であっても,債権の譲渡は,下記(3)の限度での制限があるほか,その効力を妨げられないものとする。
 (3) 譲渡制限特約のある債権が譲渡された場合において,譲受人に悪意又は重大な過失があるときは,債務者は,当該特約をもって譲受人に対抗することができるものとする。この場合において,当該特約は,次に掲げる効力を有するものとする。
  ア 債務者は,譲受人が権利行使要件(後記2(1)【甲案】ウ又は【乙案】イの通知をすることをいう。以下同じ。)を備えた後であっても,譲受人に対して債務の履行を拒むことができること。
  イ 債務者は,譲受人が権利行使要件を備えた後であっても,譲渡人に対して弁済その他の当該債権を消滅させる行為をすることができ,かつ,その事由をもって譲受人に対抗することができること。

(注2)民法第466条の規律を維持するという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,民法第466条第1項を維持するものである。
 本文(2)は,当事者間で債権譲渡を禁止する等の特約がある場合であっても,原則としてその効力は妨げられない旨を定めるものである。近時の判例(最判平成9年6月5日民集51巻5号2053頁,最判平成21年3月27日民集63巻3号449頁)の下で,譲渡禁止特約に関する法律関係が不透明であるとの指摘があることを踏まえ,取引の安定性を高める観点から,譲渡禁止特約は債務者の利益を保護するためのものであるという考え方を貫徹して法律関係を整理することによって,ルールの明確化を図るとともに,譲渡禁止特約が債権譲渡による資金調達の支障となっている状況を改善しようとするものである。ここでは,譲渡の禁止を合意したもののほか,本文(3)で示す内容の合意をしたものを含む趣旨で,「上記(1)に反する内容の特約」という表現を用い,これに譲渡制限特約という仮の名称を与えている。
 本文(3)は,当事者間における譲渡制限特約が,これについて悪意又は重過失のある譲受人にも対抗することができる旨を定めるものである。民法第466条第2項の基本的な枠組みを維持する点で判例法理(最判昭和48年7月19日民集27巻7号823頁)を明文化するものである。また,本文(3)第2文では,譲渡制限特約の効力が弁済の相手方を固定するという債務者の利益を確保する範囲に限定される旨を定めている。当事者間で譲渡の禁止を合意した場合であっても,その効力は,本文(3)第2文の限度で認められることになる。

 以上に対して,このような民法第466条の改正は,譲渡人の債権者の債権回収に悪影響を及ぼすおそれがあるとして,同条を維持すべきであるという考え方があり,これを(注2)で取り上げている。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案1(2)(3)に関する中間試案概要と同じである。
 なお、中間試案では、「譲渡制限特約」の表現が用いられていたが、単独行為によって発生する債権については、債務者の単独の意思表示によってすることができるので、「特約」という名称が適当ではない場合があることを考慮し、要綱仮案では「譲渡制限の意思表示」の表現を用いることとなった(部会資料83-2、23頁参照)。

【コメント】
 譲渡禁止特約付き債権が悪意者に譲渡され第三者対抗要件を具備した後、当該債権を譲渡人の債権者が差し押さえた場合、譲受人が債務者権利行使要件を具備する前に債務者が差押債権者による取立てに応じたときは、免責されるが、譲受人は、差押債権者に対して不当利得返還請求が可能であるものと解する。

現行法

(債権の譲渡性) 
第466条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【譲渡禁止特約は債務者の利益を保護するためのものであり,譲渡人が譲渡の無効を主張することはできない】最高裁平成21年3月27日判決・民集63巻3号449頁
  A(特別清算中の会社)は,AがBに対して有する工事代金債権甲をC(金融機関)に譲渡担保として債権譲渡したが,この債権には譲渡禁止特約が付されており,Cもこの事実を知っていた。Bは弁済金を供託している。
  債権の譲渡性を否定する意思を表示した譲渡禁止の特約は,債務者の利益を保護するために付されるものと解される。そうすると,譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって,債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,その無効を主張することは許されないと解するのが相当である。
  本件では,Aは自ら譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した者であり,Bは債権譲渡の無効を主張することなく債権者不確知を理由に債権額を供託しているから,Aには,譲渡禁止の特約の存在を理由とする本件債権譲渡の無効を主張する独自の利益はなく,Aが無効を主張することは許されないものというべきである。

A 【債務者が譲渡を承諾した場合,遡って譲渡は有効となる】最高裁昭和52年3月17日判決・民集31巻2号308頁
  BはAに対して建物を賃貸し,AはBに対して保証金を差し入れていたところ,Aは,昭和45年,保証金返還請求権(譲渡禁止特約あり)を悪意のCに譲渡し,確定日付による通知がなされ,Bはこの譲渡を承認した。その後,Bは建物を明け渡したところ,Aに対する貸金債権者Dが,昭和46年に,保証金返還請求権を差し押さえ,添付命令を得た。DのBに対する保証金返還請求事件である。
  譲渡禁止特約付債権をその譲受人が特約の存在を知って譲り受けた場合でも,その後,債務者が承諾を与えたときは,債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となり,確定日付のある譲渡通知がされている限り,債務者は,承諾以後において債権を差し押え転付命令を受けた第三者に対しても,債権譲渡が有効であることをもって対抗することができる。

B 【債務者が譲渡を承諾した場合,遡って譲渡は有効となるが,第三者の権利を侵害することはできない】最高裁平成9年6月5日判決・民集51巻5号2053頁
  AがBに対して有する債権(譲渡禁止特約あり)を譲渡禁止特約について悪意・重過失のあるCに対して譲渡し,AからBに対して譲渡通知がなされた。その後,Dらがこの債権を差し押さえたため,Bが供託し,供託とともにCへの譲渡を承認した。
  譲渡禁止特約のある債権について,譲受人が特約の存在を知りまたは重大な過失により知らないでこれを譲り受けた場合であっても,その後,債務者が譲渡を承諾したときは,債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが,民法116条の法意に照らし,第三者の権利を害することはできない。
C 【譲渡禁止特約付債権に対して差押転付命令が発令された場合,譲受人の善意・悪意を問わず,債権は移転する】最高裁昭和45年4月10日判決・民集24巻4号240頁
  AがB(金融機関)に対して有する預金債権をAの債権者Cが差し押さえて,転付命令を取得し,Bに対して支払いを求めた。
  譲渡禁止の特約のある債権であっても,差押債権者の善意・悪意を問わず,これを差し押え,かつ,転付命令によって移転することができる。なぜなら,民法466条2項は,譲渡以外の原因による債権の移転について準用ないし類推適用すべきものではなく,仮に,譲渡禁止の特約のある債権に対して発せられた転付命令について,466条2項の準用があると解すると,私人がその意思表示によって,強制執行の客体を逸脱させ又は制限することを認めることになるからである。