債権法改正 要綱仮案 情報整理

第19 債権譲渡

2 将来債権譲渡
(1) 将来債権の譲渡性

 将来債権の譲渡性について、次のような規律を設けるものとする。
ア 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
イ 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。

中間試案

4 将来債権譲渡
 (1) 将来発生する債権(以下「将来債権」という。)は,譲り渡すことができるものとする。将来債権の譲受人は,発生した債権を当然に取得するものとする。
 (2) …
 (4) 将来債権の譲受人は,上記(1)第2文にかかわらず,譲渡人以外の第三者が当事者となった契約上の地位に基づき発生した債権を取得することができないものとする。ただし,譲渡人から第三者がその契約上の地位を承継した場合には,譲受人は,その地位に基づいて発生した債権を取得することができるものとする。

(注2)上記(4)に付け加えて,将来発生する不動産の賃料債権の譲受人は,譲渡人から第三者が譲り受けた契約上の地位に基づき発生した債権であっても,当該債権を取得することができない旨の規定を設けるという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,既発生の債権だけでなく,将来発生する債権についても譲渡の対象とすることができ,将来債権の譲受人が具体的に発生する債権を当然に取得するとするものであり,判例(最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁,最判平成19年2月15日民集61巻1号243頁)を明文化するものである。

 将来債権の譲渡は,譲渡人が処分権を有する範囲でなければ効力が認められないため,譲渡人以外の第三者が締結した契約に基づき発生した債権については,将来債権譲渡の効力が及ばないのが原則である。しかし,第三者が譲渡人から承継した契約から現実に発生する債権については,譲渡人の処分権が及んでいたものなので,将来債権譲渡の効力が及ぶと解されている。本文(4)は,以上のような解釈を明文化することによって,ルールの明確化を図るものである。
 本文(4)のルールの下では,将来の賃料債権が譲渡された不動産が流通するおそれがあるが,これは不動産の流通保護の観点から問題があるとの指摘がある。このような立場から,将来発生する不動産の賃料債権の譲受人は,第三者が譲渡人から承継した契約から発生した債権であっても,これを取得しないとする例外を設ける考え方が主張されており,これを(注2)で取り上げた。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案4(1)に関する中間試案概要のとおりである。
 中間試案4(4)の規律については、かかる規律を設ける考え方の当否及び設ける場合の具体的な規律の在り方について合意形成が困難であると考えられたため、当該規律を設けることが見送られた(部会資料82-2、7頁、部会資料81B、8頁以下)。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【将来債権譲渡において,譲渡人の営業活動に著しい制限を加え,他の債権者に不当な不利益を与える場合には,公序良俗違反となる】最高裁平成11年1月29日判決・民集53巻1号151頁
  昭和57年11月,A(医師)は,昭和57年12月から平成3年2月までの8年3月間にわたってBから支払いを受ける診療報酬請求権のうちの一定額をCに対して譲渡し,確定日付をもってBに通知した。その後,平成1年5月,国税が,7月から向こう1年間にわたって支払いを受ける診療報酬債権を差し押さえた。
  譲渡の目的とされる債権は,その発生原因,譲渡に係る額等をもって特定される必要があり,将来の一定期間内に発生し,弁済期が到来すべきいくつかの債権を譲渡の目的とする場合には,適宜の方法により期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。
  将来債権の譲渡にあたっては,契約当事者は,譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし,債権発生の可能性の程度を考慮した上,債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして契約を締結するものとみるべきであるから,契約の締結時において債権発生の可能性が低かったことは,契約の効力を当然に左右するものではない。
  契約締結時における譲渡人の資産状況,その当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み,契約内容,契約が締結された経緯等を総合的に考慮し,将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について,期間の長さなどの契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らして相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え,又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情が認められる場合には,公序良俗に反して無効となる。
  判例解説(「平成11年判解5事件」93頁)には「将来債権の譲渡が有効であるためには,目的債権の特定が必要である。ただし,上記の特定の要素は例示であり,各要素がすべて明確にされておく必要はない。目的債権の発生の可能性の程度いかんは,将来債権譲渡の有効性を直ちには左右しない」旨の記載がある。

A 【将来債権を目的とする譲渡担保契約が締結された場合,目的とされた債権は譲渡担保契約によって確定的に譲渡担保権者に対して譲渡されている】最高裁平成19年2月15日判決・民集61巻1号243頁
  平成9年3月に,AB間の継続的取引契約に基づき今後1年間に発生するAのBに対する売掛金債権等をCが譲渡担保に取り,6月確定日付により通知した。その後,平成10年4月,租税庁がこれを差し押さえた。AC間の契約では,CがBに対して担保権実行通知をするまでは,譲渡債権の取立てをAに許諾する条項が入っていた。
  将来発生すべき債権を目的とする譲渡担保契約が締結された場合には,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない限り,譲渡担保の目的とされた債権は譲渡担保契約によって譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡されているのであり,この場合において,譲渡担保の目的とされた債権が将来発生したときには,譲渡担保権者は,譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当然に,当該債権を担保の目的で取得することができる。
  判例解説(「平成法19年判解5事件」135頁)には「この判決は,譲渡担保の目的とされた将来債権の移転時期に関する民法上の論点についての判断は留保しているものと解釈されている」旨の記載がある。