債権法改正 要綱仮案 情報整理

第19 債権譲渡

3 債権譲渡の対抗要件(民法第467条関係)

 民法第467条第1項の規律を次のように改めるものとする。
 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。

中間試案

2 対抗要件制度(民法第467条関係)
 (1) 第三者対抗要件及び権利行使要件
   民法第467条の規律について,次のいずれかの案により改めるものとする。
 【甲案】(第三者対抗要件を登記・確定日付ある譲渡書面とする案)
  ア 金銭債権の譲渡は,その譲渡について登記をしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。
  イ 金銭債権以外の債権の譲渡は,譲渡契約書その他の譲渡の事実を証する書面に確定日付を付さなければ,債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。
  ウ(ア) 債権の譲渡人又は譲受人が上記アの登記の内容を証する書面又は上記イの書面を当該債権の債務者に交付して債務者に通知をしなければ,譲受人は,債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができないものとする。
   (イ) 上記(ア)の通知がない場合であっても,債権の譲渡人が債務者に通知をしたときは,譲受人は,債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができるものとする。
 【乙案】(債務者の承諾を第三者対抗要件等とはしない案)
   特例法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)と民法との関係について,現状を維持した上で,民法第467条の規律を次のように改めるものとする。
  ア 債権の譲渡は,譲渡人が確定日付のある証書によって債務者に対して通知をしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。
  イ 債権の譲受人は,譲渡人が当該債権の債務者に対して通知をしなければ,債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができないものとする。
(注)第三者対抗要件及び権利行使要件について現状を維持するという考え方がある。

4 将来債権譲渡
 (1) …
 (2) 将来債権の譲渡は,前記2(1)の方法によって第三者対抗要件を具備しなければ,第三者に対抗することができないものとする。

(概要)

1 甲案
 本文の甲案は,@金銭債権の譲渡の第三者対抗要件を登記に一元化するとともに(甲案ア),A金銭債権以外の債権の譲渡の第三者対抗要件を確定日付の付された譲渡の事実を証する書面に改める(甲案イ)ものである。現在の民法上の対抗要件制度に対しては,債権譲渡の当事者ではない債務者が,譲渡の有無の照会を受けたり,譲渡通知が到達した順序の正確な把握を求められるなどの負担を強いられていることについて,実務上・理論上の問題点が指摘されている。甲案は,このような問題点を解消して債務者の負担を軽減するとともに,特に金銭債権の譲渡について取引の安全を保護することを意図するものである。なお,ここでの登記は,必ずしも特例法上の債権譲渡登記制度の現状を前提とするものではなく,@登記することができる債権譲渡の対象を自然人を譲渡人とするものに拡張すること,A第三者対抗要件を登記に一元化することで登記数が増加すること,B根担保権の設定の登記のように現在の債権譲渡登記制度では困難であると指摘されている対抗要件具備方法があることに対応するために,債権の特定方法の見直し,登記申請に関するアクセスの改善その他の必要な改善をすることを前提とする。甲案イの「譲渡契約書その他の譲渡の事実を証する書面」とは,譲渡契約書である必要はなく,譲渡対象となる債権が特定され,かつ,当該債権を譲渡する旨の当事者の意思が明らかとなっている書面であれば足りるという考えに基づくものである。
 甲案ウでは,登記の内容を証する書面(金銭債権の場合)又は譲渡契約書その他の譲渡の事実を証する書面(金銭債権以外の債権の場合)を当該債権の債務者に交付して譲渡人又は譲受人が通知をすることとは別に(甲案ウ(ア)),第三者対抗要件を具備する必要のない債権譲渡に対応するため,単なる譲渡通知を譲渡人が債務者に対してすることも債務者に対する権利行使要件としている(甲案ウ(イ))。この両者の通知が競合した場合については,本文アの登記の内容を証する書面又は本文イの書面を交付して通知をした譲受人に対して債務を履行しなければならない旨のルールを設けている(後記(2)甲案ウ)。
2 乙案
 本文の乙案は,特例法上の対抗要件と民法上の対抗要件とが併存する関係を維持した上で,民法上の第三者対抗要件について,確定日付のある証書による通知のみとするものである。債務者をインフォメーション・センターとする対抗要件制度を維持するとしても,債務者の承諾については,第三者対抗要件としての効力発生時期が不明確であるという指摘のほか,債権譲渡の当事者ではない債務者が譲受人の対抗要件具備のために積極的関与を求められるのは,債務者に不合理な負担となることが指摘されている。乙案は,このような指摘に応える方策として,確定日付のある証書による債務者の承諾を第三者対抗要件としないこととするものである。
 もっとも,現在,債権譲渡の第三者対抗要件が債務者の承諾について問題が指摘されているとしても,債務者の承諾を第三者対抗要件から削除する必要まではなく,基本的に現在の対抗要件制度を維持すべきとの考え方があり,これを(注)として取り上げた。
 乙案イでは,債務者の承諾を権利行使要件とはしないこととしている(甲案ウも同様)。これは,債務者に弁済の相手方を選択する利益を積極的に認めることは必要なく,かつ,譲渡当事者の利益保護の観点から適当ではないという考慮の他,債権譲渡の当事者でもない債務者が,譲受人の権利行使要件具備のために,承諾という積極的関与を要求されることは,制度としての合理性に疑問があるという考え方に基づき,債権譲渡制度の中で債務者が果たす役割を小さくすることによって,できる限り債務者に負担がかからない制度とすることを意図するものである。


 本文4(2)は,将来債権の譲渡についても,既発生の債権譲渡と同様の方法で第三者対抗要件を具備することができるとする判例(最判平成13年11月22日民集55巻6号1056頁)を明文化するものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案4(2)に関する中間試案概要のとおりである。
 なお、中間試案2の規律については、改正の要否及びその内容についての意見が分かれたままであり、合意形成が困難であると考えられたことから、(注)の考え方に基づいて規律を設けることが見送られた(部会資料81-3、5頁参照)。

現行法

(指名債権の譲渡の対抗要件)
第467条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【将来債権譲渡については,指名債権の対抗要件の方法によることができる】最高裁平成13年11月22日判決・民集55巻6号1056頁
 甲が乙に対する金銭債務の担保として,発生原因となる取引の種類,発生期間等で特定される甲の丙に対する既に生じ,又は将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡することとし,乙が丙に対し担保権実行として取立ての通知をするまでは,譲渡債権の取立てを甲に許諾し,甲が取り立てた金銭について乙への引渡しを要しないこととした甲,乙間の債権譲渡契約は,いわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約といわれるものの1つと解される。この場合は,既に生じ,又は将来生ずべき債権は,甲から乙に確定的に譲渡されており,ただ,甲,乙間において,乙に帰属した債権の一部について,甲に取立権限を付与し,取り立てた金銭の乙への引渡しを要しないとの合意が付加されているものと解すべきである。したがって,上記債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには,指名債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法によることができるのであり,その際に,丙に対し,甲に付与された取立権限の行使への協力を依頼したとしても,第三者対抗要件の効果を妨げるものではない。