第19 債権譲渡
民法第468条の規律を次のように改めるものとする。
ア 民法第468条第1項を削除する。
イ 民法第467条第1項の規定による通知又は承諾がされたときは、債務者は、その通知を受け、又はその承諾をした時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
3 債権譲渡と債務者の抗弁(民法第468条関係)
(1) 異議をとどめない承諾による抗弁の切断
民法第468条の規律を次のように改めるものとする。
ア 債権が譲渡された場合において,債務者は,譲受人が権利行使要件を備える時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができるものとする。
イ 上記アの抗弁を放棄する旨の債務者の意思表示は,書面でしなければ,その効力を生じないものとする。
本文アは,異議をとどめない承諾による抗弁の切断の制度(民法第468条第1項)を廃止した上で,同条第2項の規律を維持するものである。異議をとどめない承諾の制度を廃止するのは,単に債権が譲渡されたことを認識した旨を債務者が通知しただけで抗弁の喪失という債務者にとって予期しない効果が生ずることが,債務者の保護の観点から妥当でないという考慮に基づくものである。その結果,抗弁の切断は,抗弁を放棄するという意思表示の一般的な規律に委ねられることになる。
本文イは,抗弁放棄の意思表示は一方的な利益の放棄であり,慎重にされる必要があると考えられることから,抗弁を放棄する意思表示に書面要件を課すものである。
規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。
(指名債権の譲渡の対抗要件)
第467条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第468条 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
【異議を留めない承諾がなされても譲受人が悪意であれば債務者は抗弁を主張することができる】最高裁昭和42年10月27日判決・民集21巻8号2161頁
Aが,Bに対して有する工事代金290万円のうち,完成時に支払う90万円をCに対して譲渡し,Bが異議を留めずにこれを承諾したが,譲渡後にAが工事を中断したため,Bは契約を解除した。
請負契約は,報酬の支払いと仕事の完成とが対価関係に立つ契約であり,報酬請求権は仕事完成引渡と同時履行の関係に立ち,仕事完成義務の不履行を事由とする請負契約の解除により消滅するから,報酬請求権が第三者に譲渡され対抗要件をそなえた後に請負人の仕事完成義務不履行が生じ請負契約が解除された場合,債権譲渡前すでに反対給付義務が発生している以上,債権譲渡時すでに契約解除を生ずるに至るべき原因が存在していた。したがって,債務者は,債権譲渡について異議をとどめない承諾をすれば,契約解除をもって報酬請求権の譲受人に対抗することができないが,しかし,債務者が異議をとどめない承諾をしても,譲受人において債権が未完成仕事部分に関する請負報酬請求権であることを知っていた場合には,債務者は,譲受人に契約解除をもって対抗することができる。なぜなら,債務者の異議をとどめない承諾に抗弁喪失の効果を認めているのは,債権譲受人の利益を保護し一般債権取引の安全を保障するため法律が付与した法律上の効果と解すべきであって,悪意の譲受人に対してはこのような保護を与えることを要しないというべきだからである。