債権法改正 要綱仮案 情報整理

第2 意思能力

 意思能力について、次のような規律を設けるものとする。
 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しないときは、その法律行為は、無効とする。

中間試案

第2 意思能力
   法律行為の当事者が,法律行為の時に,その法律行為をすることの意味を理解する能力を有していなかったときは,その法律行為は,無効とするものとする。

(注1)意思能力の定義について,「事理弁識能力」とする考え方や,特に定義を設けず,意思能力を欠く状態でされた法律行為を無効とすることのみを規定するという考え方がある。
(注2)意思能力を欠く状態でされた法律行為の効力について,本文の規定に加えて日常生活に関する行為についてはこの限りでない(無効とならない)旨の規定を設けるという考え方がある。

(概要)

 意思能力を欠く状態でされた法律行為の効力については,民法上規定が設けられていないが,その効力が否定されることは判例上確立しており(大判明治38年5月11日民録11輯706頁),学説上も異論がない。そこで,このルールを明文化する規定を新たに設けるものである。
 意思能力に関する規定を設けるに当たって,これをどのように定義するかが問題になるが,本文では,意思能力に関する一般的な理解を踏まえて,「その法律行為をすることの意味を理解する能力」としている。意思能力の有無は画一的に定まるものではなく,当事者の行った法律行為の性質,難易等に関する考慮をも加味した上で判断されるという考え方が有力であり,従来の裁判例においても,意思能力の有無の判断に当たっては当該法律行為の性質が考慮されてきたとの指摘がある。本文の「その法律行為(をすることの意味)」という文言は,このような考え方に従うことを表している。もっとも,その法律行為の性質が考慮されるとしても,意思能力の程度は一般に7歳から10歳程度の理解力であって,取引の仕組みなどを理解した上で自己の利害得失を認識して経済合理性に則った判断をする能力までは不要であると言われている。本文は,法律行為の性質をも考慮することを前提としているが,要求される理解の程度については従来の判断基準を変更するものではない。
 これに対し,行為能力に関する規定を参考に,意思能力を「事理弁識能力」と理解する考え方もある。また,意思能力の内容を規定上は明確にせず,意思能力を欠く状態でされた法律行為は無効とすることのみを規定する考え方もある。これらの考え方を(注1)で取り上げている。
 また,意思能力を欠く状態でされた法律行為の効力については,これまでの判例・学説に従い,無効としている。
 本文は,日常生活に関する行為であっても,その意味を理解することができなかった以上無効とする考え方であるが,意思能力を欠く状態にある者が日常生活を営むことができようにするため,民法第9条と同様に,日常生活に関する行為は意思能力を欠く状態でされても有効とする考え方があり,これを(注2)で取り上げている。

赫メモ

 要綱仮案は、意思能力を欠く状態でされた意思表示が無効であるとの、判例(大判明治38年5月11日)学説上異論のない規律を明文化するものである。なお、中間試案では、意思能力の意義を明文化することとしていたが、見解の一致が見られなかったため、当該明文化は見送られた(部会資料73A、26頁)。また、中間試案では、「法律行為の時に」意思能力を要する旨の規律となっていたが、例えば、契約の申込者が申込時に意思能力を有しないときに当該契約が無効であることを端的に表現するため、要綱仮案では「意思表示をした時に」に改められた(部会資料82-2、1頁)。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【意思能力ない行為は無効である】大審院明治38年5月11日判決・民録11輯706頁
 AはBに対して手形を振り出したが,当時意思能力がなかった。
 民法が禁治産者の行為を取り消すことができるものとしているのは,禁治産者の意思の欠缺を証明しなくても,取り消すことができるものとして禁治産者を保護する趣旨である。したがって,禁治産宣告前であっても意思能力がない状態でなされた行為は無効であり,禁治産宣告後であっても意思能力がない状態でなされた行為は取消しをするまでもなく,無効である。