債権法改正 要綱仮案 情報整理

第3 意思表示

1 心裡留保(民法第93条関係)

 民法第93条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が、その意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
(2) (1)による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

中間試案

1 心裡留保(民法第93条関係)
  民法第93条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 意思表示は,表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても,そのためにその効力を妨げられないものとする。ただし,相手方が表意者の真意ではないことを知り,又は知ることができたときは,その意思表示は,無効とするものとする。
 (2) 上記(1)による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができないものとする。

(概要)

 本文(1)は,民法第93条本文を維持した上で,心裡留保の意思表示が無効となるための相手方の認識の対象(同条ただし書)について,「表意者の真意」から「表意者の真意ではないこと」に改めるものである。相手方が表意者の真意の内容まで知ることができなくても,意思表示に対応する内心の意思がないことを知り,又は知ることができたときは相手方を保護する必要はないという解釈が一般的であることから,このような理解に従って規定内容の明確化を図るものである。
 本文(2)は,民法第93条に,心裡留保による意思表示を前提として新たに法律関係に入った第三者が保護されるための要件に関する規定を新たに設けるものである。判例は,心裡留保の意思表示を前提として新たに法律関係に入った第三者について民法第94条第2項を類推適用するとしており(最判昭和44年11月14日民集23巻11号2023頁),学説も,同様の見解が有力である。同項の「善意」について,判例(大判昭和12年8月10日法律新聞4181号9頁)は,善意であれば足り,無過失であることを要しないとしている。これらを踏まえ,本文では,心裡留保の意思表示を前提として新たな法律関係に入った第三者が保護されるための要件として,善意で足りるものとしている。
 なお,心裡留保の規定は,これまで代理権の濫用の場面に類推適用されてきたが,代理権の濫用については規定を設けることが検討されており(後記第4,7),これが設けられれば,心裡留保の規定を類推適用することは不要になる。

赫メモ

 中間試案からの変更はない(中間試案概要参照)。

現行法

(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=意思表示者,B=相手方,C=第三者)
@ 【民法93条を類推適用する事案において,第三取得者に対する関係では民法94条2項が類推適用され,第三者は善意であれば保護される】最高裁昭和44年11月14日判決・民集23巻11号2023頁
  手形の振出権限を有する金融機関Aの専務理事が権限を濫用して,金融機関が手形保証した手形をBに交付し(Bは専務理事が権限濫用している事実を知り得る状態であった),この手形を国Cが滞納処分により差し押さえた。
  Cが差押え当時,Bにおいて自己の利益を図る目的のもと権限濫用して手形保証した事実を知らなかったことを主張立証した場合には,民法94条2項の規定を類推し,Aは,善意の第三者であるC,民法93条但書の類推による手形保証の無効を対抗することができないものと解すべきであるが,Cがその主張立証をしたことを認めることはできない。

A 【民法94条2項の第三者は善意で足り,無過失であることを要求されていない】大審院昭和12年8月1日判決・新聞4181号9頁
  AがBに機械を譲渡し,CがBの契約上の地位の譲渡を受けたところ,AB間の譲渡が虚偽表示であることが判明した。Cは仮装であったことを知らなかった。
  民法94条2項の第三者とは,当事者の意思表示が相通してなした虚偽表示なることを知らずに,これについて法律上の利害関係を成立させた第三者を指称するものにして,その虚偽表示なることを知らざるについて過失ありたることは必要とされていない。