債権法改正 要綱仮案 情報整理

第20 有価証券

2 記名式所持人払証券

 民法第471条を削除し、これに代えて、記名式所持人払証券について、次のような規律を設けるものとする。
(1)ア 記名式所持人払証券(債権者を指名する記載がされている証券であって、その所持人に弁済をすべき旨が付記されているものをいう。以下この第20において同じ。)の譲渡は、その証券を交付しなければ、その効力を生じない。
 イ 記名式所持人払証券の所持人は、証券上の権利を適法に有するものと推定する。
 ウ 何らかの事由により記名式所持人払証券の占有を失った者がある場合において、その所持人がイの規定によりその権利を証明するときは、当該所持人は、その証券を返還する義務を負わない。ただし、当該所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは、この限りでない。
 エ 記名式所持人払証券の債務者は、その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き、その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
(2) (1)の規定は、記名式所持人払証券を質権の目的とする場合について準用する。
(3) 1(4)及び(5)の規定は、記名式所持人払証券について準用する。

中間試案

2 記名式所持人払証券について
 (1)ア 記名式所持人払証券(債権者を指名する記載がされている証券であって,その所持人に弁済をすべき旨が付記されているものをいう。以下同じ。)の譲渡は,譲受人にその証券を交付しなければ,その効力を生じないものとする。
  イ 記名式所持人払証券の占有による権利の推定,善意取得及び善意の譲受人に対する抗弁の制限については,現行法の規律(商法第519条等)と同旨の規律を整備する。
  ウ 記名式所持人払証券を質権の目的とする場合については,ア及びイに準じた規律を整備する。
 (2) 記名式所持人払証券の弁済及び公示催告手続については,1(2)及び(3)に準じた規律を整備する。

(概要)

 (1) 本文2(1)アは,証券と権利が結合しているという有価証券の性質を踏まえ,証券の交付を譲渡の効力要件とするものである。
   本文2(1)イは,記名式所持人払証券の占有による権利の推定,善意取得及び善意の譲受人に対する抗弁の制限に関する現行法の規律(商法第519条,小切手法第21条,民法第472条類推)と同旨の規律を整備するものである。
   本文2(1)ウは,記名式所持人払証券の質入れについて,効力要件,権利の推定,質権の善意取得及び抗弁の制限に関し,譲渡の場合に準じた規律を整備するものである。
 (2) 本文2(2)は,記名式所持人払証券の弁済及び公示催告手続について,現行法の規律(民法第471条,民法施行法第57条,商法第518条)を維持しつつ,指図証券に準じた規律を整備するものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。

現行法

(指図債権の債務者の調査の権利等)
第470条 指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。

(記名式所持人払債権の債務者の調査の権利等)
第471条 前条の規定は、債権に関する証書に債権者を指名する記載がされているが、その証書の所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合について準用する。

(指図債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)
第472条 指図債権の債務者は、その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果を除き、その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。

民法施行法
〔公示催告手続による有価証券の失効〕
第57条 指図証券、無記名証券及ヒ民法第四百七十一条ニ掲ケタル証券ハ非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第百条ニ規定スル公示催告手続ニ依リテ之ヲ無効ト為スコトヲ得

商法
(有価証券喪失の場合の権利行使方法)
第518条 金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする有価証券の所持人がその有価証券を喪失した場合において、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第百十四条に規定する公示催告の申立てをしたときは、その債務者に、その債務の目的物を供託させ、又は相当の担保を供してその有価証券の趣旨に従い履行をさせることができる。

(有価証券の譲渡方法及び善意取得)
第519条 金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする有価証券の譲渡については、当該有価証券の性質に応じ、手形法(昭和七年法律第二十号)第十二条、第十三条及び第十四条第二項又は小切手法(昭和八年法律第五十七号)第五条第二項及び第十九条の規定を準用する。
2 金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする有価証券の取得については、小切手法第二十一条の規定を準用する。

手形法
(裏書の要件)
第12条 裏書ハ単純ナルコトヲ要ス裏書ニ附シタル条件ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス
2 一部ノ裏書ハ之ヲ無効トス
3 持参人払ノ裏書ハ白地式裏書ト同一ノ効力ヲ有ス

(裏書の方式)
第13条 裏書ハ為替手形又ハ之ト結合シタル紙片(補箋)ニ之ヲ記載シ裏書人署名スルコトヲ要ス
2 裏書ハ被裏書人ヲ指定セズシテ之ヲ為シ又ハ単ニ裏書人ノ署名ノミヲ以テ之ヲ為スコトヲ得(白地式裏書)此ノ後ノ場合ニ於テハ裏書ハ為替手形ノ裏面又ハ補箋ニ之ヲ為スニ非ザレバ其ノ効力ヲ有セズ

(裏書の権利移転的効力)
第14条 裏書ハ為替手形ヨリ生ズル一切ノ権利ヲ移転ス
2 裏書ガ白地式ナルトキハ所持人ハ
一 自己ノ名称又ハ他人ノ名称ヲ以テ白地ヲ補充スルコトヲ得
二 白地式ニ依リ又ハ他人ヲ表示シテ更ニ手形ヲ裏書スルコトヲ得
三 白地ヲ補充セズ且裏書ヲ為サズシテ手形ヲ第三者ニ譲渡スコトヲ得

小切手法
(受取人の表示)
第5条 小切手ハ左ノ何レカトシテ之ヲ振出スコトヲ得
一 記名式又ハ指図式
二 記名式ニシテ「指図禁止」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載スルモノ
三 持参人払式
2 記名ノ小切手ニシテ「又ハ持参人ニ」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シタルモノハ之ヲ持参人払式小切手ト看做ス
3 受取人ノ記載ナキ小切手ハ之ヲ持参人払式小切手ト看做ス

(裏書の資格授与的効力)
第19条 裏書シ得ベキ小切手ノ占有者ガ裏書ノ連続ニ依リ其ノ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ適法ノ所持人ト看做ス最後ノ裏書ガ白地式ナル場合ト雖モ亦同ジ抹消シタル裏書ハ此ノ関係ニ於テハ之ヲ記載セザルモノト看做ス白地式裏書ニ次デ他ノ裏書アルトキハ其ノ裏書ヲ為シタル者ハ白地式裏書ニ因リテ小切手ヲ取得シタルモノト看做ス

〔小切手の善意取得〕
第21条 事由ノ何タルヲ問ハズ小切手ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ其ノ小切手ヲ取得シタル所持人ハ小切手ガ持参人払式ノモノナルトキ又ハ裏書シ得ベキモノニシテ其ノ所持人ガ第十九条ノ規定ニ依リ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【記名式所持人払い債権は,証券の交付によって譲渡の効力が生じる】大審院明治42年11月24日判決・民録15輯911頁
  BがA銀行に対して有していた預金債権(証書上には債権者の記載はあるが,証書の所持人に対して弁済することもできる旨付記されている)をCに対して譲渡したが,BからAに対して譲渡通知をしていなかった。
  証書に債権者を指名しているが,その証券の所持人に弁済するべき旨付記した場合の債権の性質は,単純な指名債権,指図債権ではなく,純然たる無記名債権でもなく,記名式所持人払いという特別の証券的権利に属し,証書の交付のみよって債権譲渡の効力が生じる。これは,民法471条,民法施行規則59条から疑いのないところである。

A 【記名式所持人払い証券については,民法472条が類推適用される】大審院大正5年12月19日判決・民録22輯2450頁
  A(銀行)に対する預金の証書には,預金者名が記載されているとともに,証書の持参人に払い渡す旨が付記されていた。預金者Bは,この預金債権をCに譲渡し証書を交付したが,Aは譲渡前にBに対する貸金とこの預金債権とを相殺していたようである。
  記名式所持人払なる特殊の証券的債権であり,債権の譲渡は証書の交付のみによってその効力を生じ民法467条の規定によるべきものではない。証書の交付を受けた者はその債権の債権者となり,その債権を数多くの人の手を経て譲り受けた者はいちいち譲渡人を調査する由なきをもって,もし債務者の譲渡人に対して有する一切の抗弁を対抗されるときは不測の損害を受け容易に債権を譲り受けることができなくなり,甚だしく流通を害するに至る。民法472条の規定を類推適用するのが法律の精神に適している。