債権法改正 要綱仮案 情報整理

第21 債務引受

1 併存的債務引受
(1) 併存的債務引受の要件・効果

 併存的債務引受について、次のような規律を設けるものとする。
ア 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
イ 併存的債務引受は、引受人と債権者との契約によってすることができる。
ウ 併存的債務引受は、引受人と債務者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人に対して承諾をすることによって、その効力を生ずる。
エ ウの規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定(第29参照)に従う。

中間試案

1 併存的債務引受
 (1) 併存的債務引受の引受人は,債務者と連帯して,債務者が債権者に対して負担する債務と同一の債務を負担するものとする。
 (2) 併存的債務引受は,引受人と債権者との間で,引受人が上記(1)の債務を負担する旨を合意することによってするものとする。
 (3) 上記(2)のほか,併存的債務引受は,引受人と債務者との間で,引受人が上記(1)の債務を負担する旨を合意することによってすることもできるものとする。この場合において,債権者の権利は,債権者が引受人に対して承諾をした時に発生するものとする。

(注)以上に付け加えて,併存的債務引受のうち,@引受人が債務者の負う債務を保証することを主たる目的とする場合,A債務者が引受人の負う債務を保証することを主たる目的とする場合について,保証の規定のうち,保証人の保護に関わるもの(民法第446条第2項等)を準用する旨の規定を設けるという考え方がある。

(概要)

 本文(1)から(3)までは,併存的債務引受の要件と基本的な効果についての規定を設けるものである。その成立要件としては,債権者,債務者及び引受人の三者間の合意は必要ではなく,債権者と引受人との合意(本文(2))か,債務者と引受人との合意(本文(3))のいずれかがあればよいという一般的な理解を明文化している。他方,その効果については,引受人が,債務者と連帯して債務を負担するものとしている(本文(1))。判例(最判昭和41年12月20日民集20巻10号2139頁)は特段の事情のない限り連帯債務になるとしているが,連帯債務者の一人に生じた事由については原則として相対的効力事由とする方向での改正が検討されており(前記第16,3参照),原則と例外が入れ替わることとなる。
 また,本文(3)第2文は,債務者と引受人との合意によって成立する併存的債務引受は,第三者のためにする契約であり,これについて受益者の権利取得に受益の意思表示を必要とする民法第537条第2項を維持することを前提に,ルールを明確化するものである。
 …
 以上に付け加えて,併存的債務引受のうち,@引受人が債務者の負う債務を保証することを主たる目的とする場合と,A債務者が引受人の負う債務を保証することを主たる目的とする場合について,保証の規定のうち,保証人の保護に関わるもの(民法第446条第2項等)を準用するという考え方があり,これを注)で取り上げた。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債権者,B=債務者,C=引受人)
@ 【債務者の意思に反しても併存的債務引受をすることができる】大審院大正15年3月25日判決・民集5巻219頁
  AがBに対して売却した商品を運送したCが貨物引換証と引き換えることなく,商品をBに引き渡したため,CA間において,Bが代金を支払わなかった場合にはCがこれを支払う旨の併存的債務引受がなされた。 
  併存的債務引受は,実質的に債権の効力を確保する作用を有するもので,保証債務と豪も異なることはない。したがって,保証は債務者の意思に反してもなしうるので(民法462条1項),この法律の精神より推して第三者は原債務者の意思に反するときといえでも有効に併存的債務引受行為をすることができると解する。

A 【債務引受の成立要件を示した判例】最高裁昭和33年2月25日判決・集民30号585頁
  BがA(銀行)に対して負担していた債務全部について,BとCの間において,Bの操業に必要な機器を有利に確保することを条件としてCが肩代わりする契約を締結したが,結果的に,この条件は成就しなかった。
  第三者のためにする契約は,債務者Bとその履行を引き受けた者Cとの間の契約において,特に債権者Aをして直接その引受をなした者Cに対し履行の請求権を取得させることを約した場合にはじめて成立する。債務引受は,債権者Aと引受人Cとの間にその旨の契約の成立することを要する。本件では,そのいずれも認められない。

B 【併存的債務引受の債務者・引受人間には連帯債務関係が発生する】最高裁昭和41年12月20日判決・民集20巻10号2139頁
  AはB(清算会社)に対する貸金について,Bの清算人に請求していたが,清算人が債務を認めなかったため,Bの前社長であるCに支払いを求めたところ,Cが併存的債務引受をした。AのBに対する債権は昭和31年に時効消滅した。
  併存的債務引受がなされた場合には,反対に解すべき特段の事情のないかぎり,原債務者と引受人との関係について連帯債務関係が生ずる。本件において,連帯債務関係が生じない特段の事情があるとは解されず,原債務者Bの債務の時効消滅の効果は,民法439条の適用上,原債務者Bの負担部分について債務引受人Cにも及ぶ。