債権法改正 要綱仮案 情報整理

第21 債務引受

4 免責的債務引受による担保権等の移転

 免責的債務引受による担保権等の移転について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 債権者は、2(1)アの規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者が担保を設定した場合には、その承諾を得なければならない。
(2) (1)の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
(3) (1)及び(2)の規定は、2(1)アの規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
(4) (3)の場合において、保証人の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。
(5) (3)の保証人の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、(4)の規定を適用する。

中間試案

4 免責的債務引受による担保権等の移転
 (1) 債権者は,引受前の債務の担保として設定された担保権及び保証を引受後の債務を担保するものとして移すことができるものとする。
 (2) 上記(1)の担保の移転は,免責的債務引受と同時にする意思表示によってしなければならないものとする。
 (3) 上記(1)の担保権が免責的債務引受の合意の当事者以外の者の設定したものである場合には,その承諾を得なければならないものとする。
 (4) 保証人が上記(1)により引受後の債務を履行する責任を負うためには,保証人が,書面をもって,その責任を負う旨の承諾をすることを要するものとする。

(概要)

 本文(1)は,債務者が負担する債務のために設定されていた担保権及び保証を引受人が負担する債務を担保するものとして移転することができるという一般的な理解を明文化するものである。なお,ここで債権者の単独の意思表示で担保を移転させることができるとするのは,更改に関する後記第24,5と同様の趣旨である。
 本文(2)は,本文(1)の債権者の意思表示が,免責的債務引受と同時にされなければならないとするものである。担保の付従性との関係で,免責的債務引受と同時に担保権の処遇を決することが望ましいと考えられるからである。
 本文(3)は,民法第518条ただし書と同様の趣旨である。
 本文(4)は,保証の移転に関して,民法第446条第2項との整合性を図るものである。

赫メモ

 要綱仮案4(1)の規律の趣旨は、中間試案4(1)(4)に関する中間試案概要のとおりである。
 要綱仮案4(2)の規律の趣旨は、中間試案4(2)に関する中間試案概要のとおりである。中間試案では、「同時にする意思表示」との表現が用いられていたが、事前にされた意思表示の効力を否定するものではないという趣旨を明らかにするために「あらかじめ」の文言を加えることとしたものである(部会資料80-3、22頁、部会資料83-2、26頁参照)。
 要綱仮案4(3)(4)の規律の趣旨は、中間試案4(4)に関する中間試案概要のとおりである。
 要綱仮案4(5)は、保証の移転に関して民法446条3項との整合性を図るものである。

現行法

(更改後の債務への担保の移転)
第518条 更改の当事者は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債権者,B=債務者,C=引受人)
@ 【免責的債務引受がなされた場合,保証人の承諾がない限り,契約成立と同時に消滅する】大審院大正11年3月1日判決・民集1巻80頁
  BC間で免責債務引受がなされた場合に,Bの保証人がCのために保証債務を負担するか否かが争われた。
  免責的債務引受は,旧債務者の負担する債務を新債務者に移転さえるもので債務の同一性を害するものではないので,その債務の担保である保証債務もまた存続するようであるが,しかし,保証人は債務者その人を信用して保証債務を負担するもので特定の債務者以外の者のために保証債務を負担する意思を有しないのが通常であるから,旧債務者の保証人が引受に同意し又は新債務者である引受人のために保証人となることを承認したことの立証がなされた場合以外は,保証債務は免責的債務引受契約の成立によって消滅する。

A 【免責的債務引受がなされた場合,第三者が提供した担保は引受人の債務を担保しない】最高裁昭和37年7月20日判決・民集16巻8号1605頁
  BがAに負担する債務αについて,この債務の連帯保証人Cが免責的債務引受することで三者の合意が成立した。αについては,Dが根抵当権を設定し物上保証していた。
  第三者Dが債務者Aの債務αにつき根抵当権を設定したところ,αにつき免責的債務引受がなされたときは,根抵当権は,設定者Dの同意がない限り,債務引受をした債務者Cのための根抵当権とならない。

B 【免責的債務引受がなされた場合,第三者が提供した担保は引受人の債務を担保しない】最高裁昭和46年3月18日判決・判時623号71頁
  BがAに対して負担する債務αについて,Bの代表者Dが所有する株式に質権を設定していたところ,AC間で,αこの債務についてCが免責的債務引受をすることを合意した。
  債務引受契約が債権者Aと引受人C間の契約によって成立したときは,第三者Dが設定した質権は,特段の事情のないかぎり,消滅して引受人Cの債務を担保することはない。

C 【債務者は引受人に対して,当然には,引受額に相当する金銭を支払う義務を負担しない】大審院明治36年10月3日判決・民録9輯1046頁
  BC間においてBが負担する3000円の債務をCが引き受ける契約が成立したところ,Cは,BはCに対して3000円を弁済する義務があり,これが消費貸借契約の目的となると主張した。
  債務の引受けとは,第三者が弁済期日になって主債務に代わって債務を弁済することを約するものであるから,その契約により主債務者は当然引受額に相当する金銭を引受人に対して直ちに給付する債務を負うものではない。