債権法改正 要綱仮案 情報整理

第22 契約上の地位の移転

 契約上の地位の移転について、次のような規律を設けるものとする。
 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方が当該譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、当該第三者に移転する。

中間試案

第 21 契約上の地位の移転
 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をし,その契約の相手方が当該合意を承諾したときは,譲受人は,譲渡人の契約上の地位を承継するものとする。

(注)このような規定に付け加えて,相手方がその承諾を拒絶することに利益を有しない場合には,相手方の承諾を要しない旨の規定を設けるという考え方がある。

(概要)

 契約上の地位の移転についてのルールの明確化を図るため,その要件・効果を定める規定を新たに設けるものである。
 要件については,契約上の地位を譲渡する旨の譲渡人と譲受人の合意とともに,契約の相手方の承諾を要するのが原則であるが,賃貸借契約における賃貸人たる地位を譲渡する場合のように,契約上の地位が譲受人に承継されないことによって保護される利益が相手方にないのであれば,例外的に契約の相手方の承諾を要しないとされている。このような一般的な理解を否定する趣旨ではないが,相手方の承諾が不要となる場合の要件を適切に規律することが困難であることから,本文は,相手方の承諾が不要となる場合を解釈に委ねるものである。これに対して,相手方の承諾が不要となる場合の要件を「相手方がその承諾を拒絶することに利益を有しない場合」とする考え方があり,これを(注)で取り上げている。
 効果については,契約上の地位の移転によって,当然に譲渡人が契約から離脱することを定めており,これも,これまでの一般的な理解を明文化するものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=譲渡人,C=譲受人,B=契約の相手方)
@ 【契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要である】最高裁昭和30年9月29日判決・民集9巻10号1472頁
  B所有地について,Aが埋め立てたうえで宅地とし,かつ,Bに対して代金を支払ったときには,BはAが指定する者に土地の移転登記をすることを合意した。CはAの地位を承継し,Bに対して,Cが上記の権利を有することの確認を求めた。
  Aが代金の支払義務を有することは明らかであり,契約上の地位の譲渡については,債権者であるBの承諾なくしては,Bに対して効力を有しない。

A 【賃貸人たる地位の移転には賃借人の承諾は不要である】最高裁昭和46年4月23日判決・民集25巻3号388頁
  AはBとの間で,A所有地を建物所有目的でBに賃貸する契約を締結したが,Bは建物を建築しなかった。Aは土地所有権をCに譲渡したが,AC間ではAの賃貸人たる地位をCが承継する合意がなされていた。
  土地の賃貸借契約における賃貸人の地位の譲渡は,賃貸人の義務の移転を伴うものであるが,賃貸人の義務は賃貸人が誰であるかによって履行方法が特に異なるものではなく,土地所有権の移転があったときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとって有利であるから,一般の債務の引受の場合と異なり,新所有者Cが旧所有者の賃貸人Aとしての権利義務を承継するには,賃借人Bの承諾を必要としない。

B 【契約上の地位の譲渡を受けないと解除権の行使はできない】大審院大正14年12月15日判決・民集4巻710頁
  AがBに対して大豆を売却したところ,BC間において,CがBから買主の権利を譲り受け,売買代金支払債務を引き受けることを合意したが,Aの同意は得ていなかった。Cが,Aに対して大豆の引渡しを催告し売買契約を解除した。
  買主の権利の譲受人は,単に権利の譲受人にすぎず,売買契約当事者としての地位を承継しないため,解除権を行使することはできない。