債権法改正 要綱仮案 情報整理

第23 弁済

2 第三者の弁済(民法第474条第2項関係)

 民法第474条第2項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債権者が債務者の意思に反することを知らなかったときは、この限りでない。
(2) (1)に規定する第三者が弁済をすることができるときは、債権者は、その受領を拒むことができる。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知ったときは、この限りでない。

中間試案

2 第三者の弁済(民法第474条関係)
  民法第474条第2項の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 民法第474条第1項の規定により債務を履行しようとする第三者が債務の履行をするについて正当な利益を有する者でないときは,債権者は,その履行を受けることを拒むことができるものとする。ただし,その第三者が債務を履行するについて債務者の承諾を得た場合において,そのことを債権者が知ったときは,この限りでないものとする。
 (2) 債権者が上記(1)によって第三者による履行を受けることを拒むことができるにもかかわらず履行を受けた場合において,その第三者による履行が債務者の意思に反したときは,その弁済は,無効とするものとする。

(注)上記(1)(2)に代えて,債権者が債務を履行するについて正当な利益を有する者以外の第三者による履行を受けた場合において,その第三者による履行が債務者の意思に反したときはその履行は弁済としての効力を有するものとした上で,その第三者は債務者に対して求償することができない旨の規定を設けるという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,正当な利益を有する者以外の第三者による弁済について,債権者が受け取りを拒むことができるとするものである。現在は,第三者による履行の提供が債務者の意思に反しない場合(民法第474条第2項参照)には,債権者は受け取りを拒絶することができないと一般に考えられているため,債権者は,債務者の意思に反することが事後的に判明したときは履行を受けた物を返還しなければならないリスクを覚悟して,債務者の意思に反するかどうかの確認を待たずに,その履行を受けざるを得ないという問題が指摘されている。そこで,この問題に対応するため,客観的に判断可能な要件に該当する場合でない限り,債権者は受け取りを拒むことができることとするものである。なお,本文(1)で,当然に第三者による弁済をすることができる者の要件を「正当な利益を有する者」としているのは,法定代位が認められる要件(同法第500条)と一致させることによってルールの明確化を図る趣旨である。また,本文(1)第2文では,債務者による履行の承諾を第三者が得たことを知った場合には,債権者は受領を拒むことができないとしている。債務者の意思が客観的に外部に明らかになっている場合には,債権者による受領の拒絶を認める必要はなく,特に履行引受のような取引で行われる第三者による債務の履行が引き続き認められる必要があるという考慮に基づくものである。
 本文(2)は,以上の見直しにかかわらず,正当な利益を有しない第三者の弁済によって,その第三者から求償されることを望まないという債務者の利益を引き続き保護するため,民法第474条第2項を維持するものである。もっとも,その適用場面は,本文(1)によって現在よりも限定されることとなる。
 これに対して,本文の考え方によると,債務者の意思が不明な場合には債権者が第三者による履行を受けることができないという状況に変わりはないので,その場合であっても弁済としての効力を認めた上で,その第三者は債務者に対して求償することができないとする考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要と同じである。受領を拒絶することができるという規律が機能するのは、第三者が弁済をすることができる場合に限られるが、中間試案はそのことが分かりにくかったため、要綱仮案では規定の仕方が改められた。また、中間試案に対しては、第三者の弁済が債務者の意思に反するかどうかが分からないときに、債権者の弁済を受領することを躊躇するという問題が解消されないとの指摘があり、これを踏まえて、要綱仮案(1)のただし書が加えられた(部会資料80-3、23頁)。

現行法

(第三者の弁済) 
第474条 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【民法474条2項の利害関係者とは,弁済をすることについて法律上の利害関係を有する第三者をいう】最高裁昭和39年4月21日判決・民集18巻4号565頁
  DはBに対する売掛金を有していたが,Bが支払をしないので,BのCに対する賃料債権を差し押さえた。これに対して,Cは,AのBに対する債権を第三者弁済したことにより生じたBに対する債権を自働債権とする相殺を主張した。
  民法474条2項の利害関係者とは,物上保証人,担保不動産の第三取得者等のように,弁済をすることについて法律上の利害関係を有する第三者をいう。Cが弁済をするについて法律上直接の利害関係を有した事実は認められない旨の原審の判断(Cは,Bの第二会社的存在というだけで,利害関係を有するということはできず,しかも,Bの清算人はCに対して,Aに対する債務について第三者弁済することに反対し事前の承諾を得るよう述べていたのであるから,債務者の意思に反しての弁済となり,弁済は無効である)は正当である。
  判例解説(「昭和39年度31事件」)には,「(学説は,利害関係の範囲を拡張すべきとするのが多数であるが),本判決は,機いまだ熟せずという観点からと思われるが,このような見解を取らずに,利害関係とは,単なる事実上の利害関係ではなく,法律上の利害を差すことを明らかにした」旨の記載がある(107頁)。

A 【同上】最高裁昭和63年7月1日判決・判時1287号63頁
  A所有地上に借地権を有し建物を所有するB,その建物の賃借人C及び地主Aの3者の間で,Bが地代を支払わないときには,Bは建物を収去し,Cは家屋から立ち退く旨の裁判上の和解が成立した。Bが地代を支払わないため,Cが弁済供託した。
  CとAとの間には直接の契約関係はないが,借地権が消滅すると,CはAに対して,借地建物から退去して土地を明け渡す義務を負う関係にあり,Cは,地代を弁済し借地権が消滅することを防止することに法律上の利害関係を有する。

B 【利害関係を有しない第三者による弁済は原則として有効であるが,債務者の意思に反する場合に限り無効となる】大審院大正9年1月26日判決・民録26輯19頁
  BのAに対する債務を第三者弁済した利害関係のないCが,Aに対して,弁済が債務者Bの意思に反するとして不当利得返還請求を求めた事件である。Cは,Bの意思に反することを立証できていない。
  民法474条2項の法意は,利害関係を有しない第三者のなした弁済といえども効力を有するのを原則とし,ただ債務者の意思に反する場合に限りこれを無効とする異例を認めたものである。なぜなら,債務の弁済は,利害関係ない第三者がなす場合といえども,債務者自身がなしたると同一の経済上の利益を与えるべきことに害はなく,債務者において欲せざる意思の観るべきものある場合の他は無効とする理由がないからである。

C 【債務者の意思に反する場合,弁済者は債権者に対して不当利得返還請求権を行使することができる】大審院昭和17年11月20日判決・新聞4815号17頁(事案は省略)
  弁済が債務者の意思に反する以上弁済は無効であるため,弁済者は債権者に対して不当利得返還請求をすることができる一方で,債務は消滅せず存続するため,債務者は債権者から請求を受けたときには弁済しなければならないので,利得はない。

D 【利得の喪失は不当利得返還請求の相手方において立証すべきである】最高裁平成3年11月19日判決・民集45巻8号1209頁
  AがB(銀行)に対して手形の取立及び取立金の普通預金への入金を依頼したところ,BはAに対して手形期日に手形金額相当額を支払ったが,手形は不渡りとなった。BからAに対する不当利得返還請求事件である。
  この事実関係によれば,約束手形は不渡りとなりその取立金相当額の普通預金口座への寄託はなかったのであるから,取立金に相当する金額の払戻しを受けたことにより,AはBの損失において法律上の原因なしに同額の利得をしたものである。金銭の交付によって生じた不当利得につきその利益が存しないことについては,不当利得返還請求権の消滅を主張する者において主張・立証すべきところ,本件においては,Aが利得した利益を喪失した旨の事実の主張はないのであるから,利益はAに現に帰属していることになり,Aが現に保持する利益の返還義務を軽減する理由はないと解すべきである。