債権法改正 要綱仮案 情報整理

第23 弁済

5 代物弁済(民法第482条関係)

 民法第482条の規律を次のように改めるものとする。
 弁済をすることができる者が、債権者との間で、その負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済をすることができる者が当該他の給付をしたときは、その債権は、消滅する。

中間試案

5 代物弁済(民法第482条関係)
 民法第482条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 債務者が,債権者との間で,その負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において,債務者が当該他の給付をしたときは,その債権は,消滅するものとする。
 (2) 上記(1)の契約がされた場合であっても,債務者が当初負担した給付をすること及び債権者が当初の給付を請求することは,妨げられないものとする。

(概要)

 本文(1)は,代物弁済契約が諾成契約であることと,代物の給付によって債権が消滅することを条文上明らかにするものである。代物弁済契約が要物契約であるという解釈が有力に主張されているが,これに対しては,合意の効力発生時期と債権の消滅時期とが一致することによって,代物の給付前に不動産の所有権が移転するとした判例法理との関係などをめぐって法律関係が分かりにくいという問題が指摘されていた。このことを踏まえ,合意のみで代物弁済契約が成立することを確認することによって,代物弁済をめぐる法律関係の明確化を図るものである。
 本文(2)は,代物弁済契約が締結された場合であっても,債務者は当初負担した債務を履行することができるとともに,債権者も当初の給付を請求することができることを明らかにするものである。代物弁済契約の成立によって,当初の給付をする債務と代物の給付をする債務とが併存することになるため,当事者間の合意がない場合における両者の関係についてルールを明確化することを意図するものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案(1)に関する中間試案概要のとおりである。要綱仮案では、第三者も代物弁済をすることができるという現在確立している解釈を導くため、表現が一部変更された。
 中間試案(2)については、規律の内容が全体のバランスからやや詳細すぎるとの指摘があったこと、その内容についても異論があったことから、当該規律を設けることが見送られた。

現行法

(代物弁済)
第482条 債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【代物弁済により債務が消滅するためには,新たな債務の目的物を給付しなければならない】最高裁昭和39年11月26日判決・民集18巻9号1984頁
  AB間で,AのBに対する貸金について弁済を怠った場合には,当然にBが所有する山林の所有権をAに移転し,移転登記をすることを合意し,Bが履行期に弁済しなかった。
  代物弁済が債務消滅の効力を生ずるには,債務者が本来の給付に代えてなす他の給付を現実に実行することを要し,単に代わりの給付をなすことを債権者に約すのみでは足りない。不動産を代物弁済の目的とする場合,登記その他の引渡行為を終了し,第三者に対する関係においてもまったく完了したときでなければ,代物弁済は成立しない。

A 【新たな債務の目的物の所有権は代物弁済の意思表示によって移転する】最高裁昭和40年3月11日・金法406号6頁
  AがBに対して有する債権に関して,AB間で代物弁済の一方の予約がなされその旨の仮登記がなされていたところ,Aがその完結権を行使して,Bに対して本登記等を求めた事件。
  不動産所有権の譲渡を以てする代物弁済による債務消滅の効果は,移転登記の完了する迄生じないにしても,所有権移転の効果が代物弁済予約の完結の意思表示によって生ずることを妨げるものではない。

B 【同上】最高裁昭和57年6月4日判決・判時1048号97頁
  Cは,B所有地αについて,Aが代物弁済により取得し,AがこれをCに対して譲渡した旨主張した。
  代物弁済による所有権移転の効果が,原則として当事者間の代物弁済契約の意思表示によって生ずることを妨げるものではないと解するのが相当であるから(判例A),原審が,不動産の代物弁済による所有権移転の効力を生ずるためには債権者への所有権移転登記がされなければならないと判断したのは失当である。

C 【同上】最高裁昭和60年12月20日判決・判時1207号53頁
  AはBに対して賃借権を譲渡したが,AB間において,代金の一部をB所有の不動産を譲渡することで弁済する合意がなされた。ところが,賃借権の譲渡について賃貸人が承諾しなかったため,Bは当該不動産を第三者に処分したうえで,賃借権の譲渡契約を解除した。AはBに対して不動産のてん補賠償を求めた。
  不動産所有権の譲渡をもってする代物弁済による債務消滅の効果は,特段の事情のない限り,単に代物弁済の意思表示をするだけでは生ぜず,所有権移転登記を完了した時に生じる。このことは,代物弁済による所有権移転の効果が,原則して当事者間の代物弁済契約の成立した時にその意思表示の効果として生ずることを妨げない。したがって,本件では,不動産の所有権は,AB間で代物弁済が成立した時点でBからAに移転したことになるが,Bの解除の意思表示により賃借権譲渡代金債務は遡及的に消滅し,代物弁済契約による不動産の所有権移転の効果も遡って消滅する。