債権法改正 要綱仮案 情報整理

第23 弁済

7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで関係)

 民法第488条から第491条までの規律を次のように改めるものとする。
(1) 次に掲げるいずれかの場合に該当し、かつ、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をした場合において、その者と債権者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い充当するものとする。
 ア 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする数個の債務を負担するとき(イに該当するときを除く。)。
 イ 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする一個又は数個の債務を負担する場合において、そのうち一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきとき。
(2) (1)アに該当する場合において、(1)の合意がないときに適用される規定として、民法第488条及び第489条と同旨の規定を設ける。
(3) (1)イに該当する場合において、(1)の合意がないときに適用される規定として、民法第491条と同旨の規定を設ける。この場合において、その債務の費用、利息及び元本のうちいずれかの全部を消滅させるのに足りないときは、(2)の規律に従う。
(4) 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、(1)から(3)までの規定を準用する。

中間試案

7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで関係)
  民法第488条から第491条までの規律を次のように改めるものとする。
 (1) 次に掲げるいずれかの場合に該当し,かつ,履行をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をした場合において,当事者間に充当の順序に関する合意があるときは,その順序に従い充当するものとする。
  ア 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする数個の債務を負担する場合(下記ウに該当する場合を除く。)
  イ 債務者が一個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(下記ウに該当する場合を除く。)
  ウ 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする数個の債務を負担する場合において,そのうち一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきとき
 (2) 上記(1)アに該当する場合において,上記(1)の合意がないときは,民法第488条及び第489条の規律によるものとする。
 (3) 上記(1)イに該当する場合において,上記(1)の合意がないときは,民法第491条の規律によるものとする。
 (4) 上記(1)ウに該当する場合において,上記(1)の合意がないときは,まず民法第491条の規律によるものとする。この場合において,数個の債務の費用,利息又は元本のうちいずれかの全部を消滅させるのに足りないときは,民法第488条及び第489条の規律によるものとする。
 (5) 民法第490条を削除するものとする。
 (6) 民事執行手続における配当についても,上記(1)から(4)までの規律(民法第488条による指定充当の規律を除く。)が適用されるものとする。

(注)上記(6)については,規定を設けないという考え方がある。

(概要)

 弁済の充当に関する民法第488条から第491条までについて,規定相互の関係が必ずしも分かりやすくないと指摘されてきたこと等を踏まえ,これらのルールの関係を整理し,規律の明確化を図るものである。
 本文(1)は,弁済の充当に関する当事者間の合意がある場合には,その合意に従って充当されることを明らかにする規定を新たに設けるものである。弁済の充当に関しては,実務上,合意の果たす役割が大きいと指摘されていることを踏まえたものである。
 本文(2)は,現在の民法第488条(指定充当)及び第489条(法定充当)の規律を維持するものである。
 本文(3)は,一個の債務について元本,利息及び費用を支払うべき場合に関して,現在の民法第491条の規律を維持するものである。
 本文(4)は,一個又は数個の債務について元本,利息及び費用を支払うべき場合に関して,現在の民法第491条の規律を維持した上で,残額がある費用,利息又は元本の間においては同法第488条及び第489条の規律が適用されるとするものである。この場合に指定充当が認められるとする点は,現在争いがある問題について,ルールを明確化するものである。
 本文(5)は,民法第490条を削除するものである。同条が規律する一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合(例えば,定期金債権に基づいて支分権である個別の債務が発生する場合)については,弁済の充当に関しては,数個の債務が成立していると捉えることが可能であり,あえて特別の規定を存置する意義に乏しいと思われるからである。
 本文(6)は,民事執行手続における配当について,当事者間に充当に関する特約があったとしても,法定充当によると判断した判例(最判昭和62年12月18日民集41巻8号1592頁)の帰結を改め,合意による充当を認めることとするものである。法定充当しか認められないことによって担保付きの債権が先に消滅するという実務的な不都合が生じている等の指摘がある反面,配当後の充当関係について一律に法定充当によらなければ執行手続上の支障が生ずるとは必ずしも言えないとの指摘があることを考慮したものである。もっとも,上記の判例は民事執行の円滑で公平な処理に資するもので変更の必要はなく,仮に合意充当を認めれば民事執行の手続に混乱と紛争を惹起し,執行妨害等の弊害が懸念されるとの指摘があり,このような規定を設けないとする考え方を(注)で取り上げている。

赫メモ

 要綱仮案(1)の規律の趣旨は、中間試案(1)に関する中間試案概要と同じである(要綱仮案(1)イは、中間試案(1)イ及びウをまとめて規律したものである)。
 要綱仮案(2)は、中間試案(2)と同じである(中間試案概要の該当部分、参照)。
 要綱仮案(3)は、中間試案(3)(4)と同じである(中間試案概要の該当部分、参照)。
 要綱仮案(4)は、民法490条を維持するものである。中間試案では、同条の適用場面については、数個の債務が成立していると捉えることが可能であり、これを削除する考え方が取り上げられていたが、例えば、売買代金債権が月賦払とされていたときにも、数個の債務が成立すると捉えるのは技巧的であるようにも思われることから、同条を存置するものとされた(部会資料70A、36頁)。
 民事執行手続における配当について合意充当を認める規律(中間試案(6))については、裁判所が執行手続に具体的な支障が生ずると強く主張したために、かかる規律を設けることは見送られた(部会資料80-3、26頁)。

現行法

(弁済の充当の指定)
第488条 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。

(法定充当)
第489条 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
 一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
 二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
 三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
 四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

(数個の給付をすべき場合の充当)
第490条 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前二条の規定を準用する。

(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
第491条 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【民法491条に関して,充当順序の指定は認められない】大審院大正6年3月31日判決・民録23輯591頁
  AがBに対して売買代金請求権を有していたところ,Bは,7月に,200円をAのもとに持参し,Aはこれを売買代金250円の5月から7月分の利息の一部として受領した。売買代金の支払期限は5月末,利息の支払期限は8月末であった。
  元本の弁済期が到来し,利息の弁済期が到来しない場合であっても,まず,利息に充当すべきことは,民法491条が弁済者及び債権者の指定を認めていないことから明らかである。

A 【弁済充当に関する合意が有効であることを前提に判断を下した事例】最高裁平成22年3月16日判決・判時2078号18頁
  AはB(破産者)らに対して別除権を有していたところ,別除権の目的物@の任意売却によって3口の債権(合計5500万円)が残り,さらに目的物Aについても任意売却され4800万円を受領した。AB間には,Aが任意の時期に充当指定することができる旨の充当指定権に関する特約があったため,Aは,充当未定として,5500万円を別除権不足額として届け出た。管財人は,法定充当される旨主張している。
  弁済充当特約は,民法488条1項に基づく弁済者による充当の指定を排除し,2項但書に基づく弁済受領者による充当の指定に対する弁済者の異議権を排除することを主たる目的とする合意と解すべきであるが,弁済充当特約において,債権者において任意の時期に充当の指定ができる旨が合意されているとしても,弁済受領後いつまでも充当の指定をすることが許されるとすると,充当の指定がされるまで権利関係が確定せず,法的安定性が著しく害されることになる。Aは,弁済を受けて1年以上が経過した時期において初めて,弁済充当特約に基づく充当指定権を行使する旨を主張するに至ったことが明らかであり,弁済充当特約に基づく充当指定権を行使することは,法的安定性を著しく害するものとして,許されない。