債権法改正 要綱仮案 情報整理

第23 弁済

8 弁済の提供(民法第492条関係)

 民法第492条の規律を次のように改めるものとする。
 債務者は、弁済の提供の時から、債務の履行をしないことによって生ずべき責任を免れる。

中間試案

8 弁済の提供(民法第492条関係)
 民法第492条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 債務者は,弁済の提供の時から,履行遅滞を理由とする損害賠償の責任その他の債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れるものとする。
 (2) 前記第11,1によれば契約の解除をすることができる場合であっても,債務者が弁済の提供をしたときは,債権者は,契約の解除をすることができないものとする。

(概要)

 本文(1)は,弁済の提供の効果として履行遅滞を理由とする損害賠償の責任を免れることを,民法第492条に具体的に例示するものである。これによって,現在は不明確であるとされる受領(受取)遅滞の効果(前記第13)との関係を整理し,ルールの明確化を図るものである。
 本文(2)は,弁済の提供によって,本文(1)の効果の他,契約の解除をすることができなくなるという一般的に認められている解釈を明文化するものである。

赫メモ

 弁済の提供の効果と受領遅滞の効果の区別については、現行民法の条文上明確ではないが、要綱仮案においては、特定物の引渡しの場合における注意義務の軽減、増加費用の債権者負担、及び、目的物滅失等の場合における危険の移転については、もっぱら債権者の責任や負担が加重されるという効果であり、債権者の行為と結びつく効果であると整理するのが妥当であるとの考え方から、受領遅滞の効果に位置付けるものとされた(要綱仮案第14)。これに対し、履行遅滞による債務不履行責任の不発生や債権者の同時履行の抗弁権の消滅については、弁済の提供の効果に位置付けるものとし、このうち同時履行の抗弁権の消滅については既に民法533条により明確になっていることから、民法492条では履行遅滞による債務不履行責任の不発生のみを規律することとし、その旨を明確にするため、「債務の不履行によって生ずべき一切の責任」の表現を改めることとしたものである(部会資料70A、37頁)。
 中間試案(2)の規律について明文化は見送られたが(その経緯は部会資料上明確ではない。部会資料80-1、18頁において明文化が見送られているが、その経緯の説明は部会資料80-3に存在しない)、当該規律が要綱仮案の解釈上導かれることは当然の前提である。

現行法

(弁済の提供の効果)
第492条 債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【受領遅滞にある債権者が催告しても解除の前提となる催告をしたことにはならない】最判昭和35年10月27日判決・民集14巻12号2733頁
  BがAに対して3万円を支払い,これと引き換えに,AがBに畑を返還する旨の合意がなされたが,Aは,3万円を受け取らず,かえって,契約を解除した。
  受領遅滞にあるAとしては,契約解除の前提としての催告をするためには,Bに対し受領遅滞を解消させるに足る意思表示をしたうえ,3万円を請求すべきであって,これなしに漫然と支払いのみを請求しても契約解除の前提としての適法な催告をしたものとは認められない。

A 【債権者の協力がなければ給付が完了しない場合には履行の準備を整えて債権者の協力を求めれば,債務不履行責任を負わない】最判昭和45年10月13日判決・判時614号47頁
  BがAに甲建物を賃貸していたところ,甲建物に隣接しているB所有の乙建物が甲建物に倒れ掛かっていたため,Bは乙建物の腐食した柱を修理することとし,Aに対して,甲建物内にある物品を一時搬出するよう要請した。しかし,Aはこれを拒絶した。乙建物の倒壊によって,甲建物内のAの商品が破損した。
  債務を履行するにあたり,その性質上,債権者の協力がなければその給付を完了することができない場合においては,債務者は,みずからなしうる履行の準備をととのえて債権者の協力を待つべきであり,債務者が債務の本旨に従った履行の準備をし債権者の協力を求めたにかかわらず,債権者においてこれを拒んだため給付を完了することができないときは,債務者は債務不履行の責任を負わない。