債権法改正 要綱仮案 情報整理

第23 弁済

9 弁済の目的物の供託(民法第494条から第498条まで関係)

(1) 民法第494条の規律を次のように改めるものとする。
 ア 弁済をすることができる者(以下この9において「弁済者」という。)は、次に掲げる事由があるときは、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
  (ア) 弁済の提供があった場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
  (イ) 債権者が弁済を受領することができないとき。
 イ 弁済者が債権者を確知することができないときも、アと同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
(2) 民法第497条前段の規律を次のように改めるものとする。
  弁済の目的物が供託に適しないとき、その物について滅失、損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるときその他その物を供託することが困難な事情があるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。
(3) 民法第498条の規律を次のように改めるものとする。
 ア 弁済の目的物が供託された場合には、債権者は、供託物の還付を請求することができる。
 イ 債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。(民法第498条と同文)

中間試案

9 弁済の目的物の供託(民法第494条から第498条まで関係)
 弁済供託に関する民法第494条から第498条までの規律を基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。
 (1) 民法第494条の規律を次のように改めるものとする。
  ア 履行をすることができる者は,次に掲げる事由があったときは,債権者のために弁済の目的物を供託することができるものとする。この場合においては,履行をすることができる者が供託をした時に,債権は消滅するものとする。
   (ア) 弁済の提供をした場合において,債権者がその受取を拒んだとき
   (イ) 債権者が履行を受け取ることができないとき
  イ 履行をすることができる者が債権者を確知することができないときも,上記アと同様とするものとする。ただし,履行をすることができる者に過失があるときは,この限りでないものとする。
 (2) 民法第497条前段の規律を次のように改めるものとする。
   弁済の目的物が供託に適しないとき,その物について滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき,又はその物を供託することが困難であるときは,履行をすることができる者は,裁判所の許可を得て,これを競売に付し,その代金を供託することができるものとする。
 (3) 民法第498条の規律の前に付け加え,弁済の目的物が供託された場合には,債権者は,供託物の還付を請求することができるものとする。

(概要)

 本文(1)ア(ア)は,受領拒絶を供託原因とする弁済供託の要件として,受領拒絶に先立つ弁済の提供が必要であるという判例法理(大判大正10年4月30日民録27輯832頁)を明文化するとともに,弁済供託の効果として,弁済の目的物の供託をした時点で債権が消滅することを明文化することによって,弁済供託に関する基本的なルールを明確化するものである。口頭の提供をしても債権者が受け取らないことが明らかな場合に,弁済の提供をすることなく供託することができるとする現在の判例(大判大正11年10月25日民集1巻616頁)及び供託実務は,引き続き維持されることが前提である。同(イ)は,受領不能を供託原因とする現状を維持するものである。
 本文(1)イは,債権者の確知不能を供託原因とする弁済供託の要件のうち,債務者が自己の無過失の主張・立証責任を負うとされている点を改め,債権者が債務者に過失があることの主張・立証責任を負担することとするものである。債権者不確知の原因の多くが債権者側の事情であることを踏まえると,債務者に過失があることについて,債権者が主張・立証責任を負うとすることが合理的であると考えられるからである。
 本文(2)は,金銭又は有価証券以外の物品の自助売却に関する民法第497条前段の要件のうち,「滅失若しくは損傷のおそれがあるとき」を「滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき」と改めるものである。物理的な価値の低下でなくても,市場での価格の変動が激しく,放置しておけば価値が暴落し得るようなものについては,自助売却を認める必要があるという実益に応えようとするものである。また,同条前段の要件として,新たに「弁済の目的物を供託することが困難なとき」を加えている。供託所について特別の法令の定めがない場合に,裁判所が適当な供託所又は保管者を選任すること(同法第495条第2項参照)は現実的に難しく,物品供託をすることは困難であるが,自助売却までに時間がかかるという実務的な不都合が指摘されていることを踏まえて,債務の履行地に当該物品を保管することができる供託法所定の供託所が存在しない場合には,同項の規定による供託所の指定又は供託物保管者の選任を得る見込みの有無にかかわらず,迅速に自助売却をすることができるようにするものである。
 本文(3)は,弁済供託によって債権者が供託物の還付請求権を取得するという基本的なルールを明文化するものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要と同じである。

現行法

(供託) 
第494条 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。

(供託の方法)
第495条 前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。
2 供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。
3 前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。

(供託物の取戻し)
第496条 債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす。
2 前項の規定は、供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。

(供託に適しない物等)
第497条 弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。

(供託物の受領の要件)
第498条 債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【供託するためには,現実の提供,口頭の提供が必要である】大審院大正10年4月30日判決・民録27輯832頁
  BがAに対して買戻特約付で売却した不動産について,Bが買戻権を行使しようとしたところ,Aが買戻代金の受領を拒絶したため,供託した。
  原審は,債権者が予め受領を拒絶した場合には,債務者による現実の提供,口頭の提供は無用の手続であり,供託できるとしたが,大審院はこの判断を失当とした。(ただし,結論としては,供託の効果を認めている。)

A 【債権者の受領拒絶の意思が明確であれば,口頭の提供をしなくても供託できるとされた事例】大審院大正11年10月25日判決・民録1巻616頁
  AがBに対して金銭を貸し付け,B所有不動産αに抵当権を設定していたところ,Aは,Bからの弁済の受取を拒絶し,αの返還を拒否したため,Bは返済金を供託した。
  債権者が弁済を受領しないことが明確な場合,債務者は,民法493条但書の口頭の提供の要件である通知と催告をしなくても,供託をすることができる。