債権法改正 要綱仮案 情報整理

第23 弁済

10 弁済による代位
(4) 一部弁済による代位の要件・効果(民法第502条関係)

 民法第502条第1項の規律を次のように改めるものとする。
ア 債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、債権者の同意を得て、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使することができる。
イ アのときであっても、債権者は、単独でその権利を行使することができる。
ウ ア又はイの規定に基づき債権者が行使する権利は、その権利の行使によって得られる担保の目的となっている財産の売却代金その他の金銭について、代位者が行使する権利に優先する。

中間試案

10 弁済による代位
 (3) 一部弁済による代位の要件・効果(民法第502条関係)
   民法第502条第1項の規律を次のように改めるものとする。
  ア 債権の一部について第三者が履行し,これによって債権者に代位するときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができるものとする。
  イ 上記アのときであっても,債権者は,単独でその権利を行使することができるものとする。
  ウ 上記ア又はイに基づく権利の行使によって得られる担保目的物の売却代金その他の金銭については,債権者が代位者に優先するものとする。

(概要)

 本文アは,一部弁済による代位の要件について,代位者が単独で抵当権を実行することができるとした判例(大決昭和6年4月7日民集10巻535号)を改め,代位者による単独での抵当権の実行を認めないこととした上で,これを抵当権以外の権利行使にも一般化して明文化するものである。この場合の代位者が単独で権利を行使することができるとすると,本来の担保権者である債権者が換価時期を選択する利益を奪われるなど,求償権の保護という代位制度の目的を逸脱して債権者に不当な不利益を与えることになるという問題意識に基づくものである。
 本文イは,一部弁済による代位が認められる場合であっても,債権者は単独で権利行使することが妨げられないとするものである。債権者による権利の行使が,債権の一部を弁済したに過ぎない代位者によって制約されるべきではないという一般的な理解を明文化するものである。
 本文ウは,一部弁済による代位の効果について,抵当権が実行された場合における配当の事例で債権者が優先すると判断した判例(最判昭和60年5月23日民集39巻4号940頁,最判昭和62年4月23日金法1169号29頁)を,抵当権以外の権利行使にも一般化して明文化するものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要と同じである。

現行法

(一部弁済による代位)
第502条 債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使する。
2 前項の場合において、債務の不履行による契約の解除は、債権者のみがすることができる。この場合においては、代位者に対し、その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【一部代位者も,債権者と共同することなく単独で担保権を実行することができる】大審院昭和6年4月7日決定・民集10巻535頁
  AのBに対する貸金を保証した保証人Cが貸金の一部を第三者弁済し,AがBに対して有する抵当権の実行を求めた事件。
  一部代位弁済がなされたときは,代位者はその価額に応じて債権者と共同せずに個別の権利行使することができる。なぜなら,民法502条1項は「単に債権者ともに権利行使できる」と規定しているにすぎず,権利を分割行使できる場合には,債権者と共同することなくその割合に応じて格別に行使できる趣旨であるからである。債権者が残債務についてその権利を実行することができる時期に達したか否かを問わず,一部代位者は権利を行使することができる。

A 【一部代位者は,単独で担保権を実行することができない,とされた事例】東京高裁昭和55年10月20日決定・判タ429号106頁
  AのBに対する貸金の担保のために,Bの不動産αと物上保証人Cの不動産βにそれぞれ抵当権が設定してあり,β上にはDの後順位抵当権が設定されていた。βが競売に付され,Aが配当金を受領したため(ただし,貸金全額の返済はなされていない),Dは,(2)判例Bの法理により,Aとの準共有になったαの競売申立てをした。
  債権の一部につき代位弁済がされたときは,代位者であるDは,Aの担保権行使と別個に独立して担保権行使をすることは許されない。なぜなら,一部弁済の場合には,もともとAが残存債権に対して有する権利を害することができないから(当裁判所は,判例@の見解を採用しない)。

B 【抵当権の配当金について,債権者は一部代位者に優先する】最高裁昭和60年5月23日判決・民集39巻4号940頁
  AのBに対する貸金を担保するために,B所有の不動産αと物上保証人C所有の不動産β上に極度額1億5500万円の根抵当権が設定され,さらに,βについては,Dが第二順位の抵当権を設定していたところ,まず,βが売却されAが1700万円の配当を受け(したがって,CはAの抵当権について1700万円の範囲で準共有となる),つぎにαが売却された。裁判所は,αについて,Dについて債権全額1100万円,Aについて1億2700万円(1億5500万円‐1700万円‐1100万円)とする配当表を作成した。
  債権者が物上保証人の設定にかかる抵当権の実行によって債権の一部の満足を得た場合,物上保証人は,民法502条1項の規定により,債権者と共に債権者の有する抵当権を行使することができるが,この抵当権が実行されたときには,その代金の配当については債権者に優先されると解するのが相当である。なぜなら,弁済による代位は代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するための制度であり,そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではなく,この担保権が実行された場合における競落代金の配当について債権者の利益を害するいわれはないからである。
  判例解説(「昭和61年度13事件」)には「代位弁済制度の目的は求償権の保護に尽きるのであるから,債権者に対して担保権の処分を強いて将来の担保権の実行を不能ならしめ,抵当権の価値が低いときにその優先弁済権を妨げる等債権者の固有の権利を害してまで代位を認めることは,その目的を逸脱している。また,一部代位弁済を受けたために債権者が不利益を被るというのでは,本来の目的を逸脱するものといわざるをえない」との記載がある(261頁以下)。

C 【同上】最高裁昭和62年4月23日判決・金法1169号29頁
  AはBに対して,3500万円と2000万円の2本の貸金を有しており,極度額3000万円の根抵当権を有していた。2000万円の貸金についてはC(保証協会)が保証しており,Cが保証債務を全部履行したが,その後求償権は消滅した。Bの担保物件に対する後順位抵当権者からの配当異議訴訟。
  債権の一部について代位弁済がされた場合,右債権を被担保債権とする根抵当権の実行による売却代金の配当については,債権者は代位弁済者に優先するものと解すべきである(@の判決)から,債権者は,代位弁済者の求償権が消滅したと否とにかかわらず,自己の有する残債権額及び被担保債権額の限度において後順位抵当権者に優先して売却代金の交付を受けることができるものというべきである。本件不動産の売却代金につき,Aに対し,その残債権額及び根抵当権の極度額の限度内において,後順位抵当権者に優先して交付すべきものとした本件売却代金交付計算書は相当である。

D 【劣後する譲渡担保権者は,独自に譲渡担保権の私的実行をすることができない】最高裁平成18年7月20日判決・民集60巻6号2499頁
  AがBのいけす内で養殖されている魚を集合動産譲渡担保に取り,占有改訂の方法により対抗要件を具備した。その後,BはCに対しても集合動産譲渡担保を設定し,占有改訂の方法により対抗要件を具備した。CがBに対して魚の引渡しを求めた。
  A2との譲渡担保設定契約に先立って,Aのために譲渡担保が設定され,占有改定の方法による引渡しをもってその対抗要件が具備されているのであるから,これに劣後する譲渡担保が,Cのために重複して設定されたことになる。このように重複して譲渡担保を設定すること自体は許されるとしても,劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合,配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり,先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず,その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない。このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできないというべきである。
  判例解説(「平成18年度35事件」)には「公示が不十分な動産譲渡担保にあっては,現実に私的実行がされてしまうと,第三者の善意取得を防ぐことは困難であり,集合物としての場所的な関係を離れた個別の動産に対する権利行使は事実上困難となることが予測される」旨の記載がある(851頁)。