債権法改正 要綱仮案 情報整理

第23 弁済

10 弁済による代位
(5) 担保保存義務(民法第504条関係)

 民法第504条の規律を次のように改めるものとする。
ア 債権者は、(1)ウの規定により代位をすることができる者のために、その担保を喪失し、又は減少させない義務を負う。
イ 債権者が故意又は過失によってアの義務に違反したときは、(1)ウの規定により代位をすることができる者は、代位をするに当たってその喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。債権者が故意又は過失によってアの義務に違反した後に担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者についても、同様とする。
ウ イの規定は、その担保を喪失し、又は減少させたことについて、取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。

中間試案

10 弁済による代位
 (4) 担保保存義務(民法第504条関係)
   民法第504条の規律を次のように改めるものとする。
  ア 債権者は,民法第500条の規定により代位をすることができる者のために,担保を喪失又は減少させない義務を負うものとする。
  イ 債権者が故意又は過失によって上記アの義務に違反した場合には,上記アの代位をすることができる者は,その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において,その責任を免れるものとする。ただし,その担保の喪失又は減少が代位をすることができる者の正当な代位の期待に反しないときは,この限りでないものとする。
  ウ 上記イによって物上保証人,物上保証人から担保目的物を譲り受けた者又は第三取得者が免責されたときは,その後にその者から担保目的物を譲り受けた者も,免責の効果を主張することができるものとする。

(注)上記イ第2文については,規定を設けないという考え方がある。

(概要)

 本文アは,債権者が,代位権者に対して担保保存義務を負うことを明らかにするものであり,民法第504条が含意しているルールの明確化を図るものである。
 本文イは,担保保存義務違反の要件として,故意又は過失による担保の喪失又は減少と,それが正当な代位の期待に反するものであることを明らかにするとともに,その効果として,担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において,代位権者が免責されるとするものである。要件については,民法第504条によると,取引上合理的と評価される担保の差し替えであっても,形式的には同条の要件を充足することになり,不合理であると指摘されてきたことを踏まえて,規律の合理化を図るものである。なお,本文の規律は,引き続き担保保存義務免除特約の効力が認められるとともに,その効力の限界に関する判例(最判平成7年6月23日民集49巻6号1737頁)も維持されるとの考えに基づくものである。
 本文ウは,本文イによる免責が生じた場合には,その後に担保目的物を取得した第三者も免責の効果を主張することができるとする判例法理(最判平成3年9月3日民集45巻7号1121頁)を明文化するものである。

赫メモ

 要綱仮案(5)アは、中間試案(4)アと同じである(中間試案概要の該当部分、参照)。
 要綱仮案(5)イ第一文は、中間試案(4)イ本文と同じである(中間試案概要の該当部分、参照)。
 要綱仮案(5)イ第二文の規律の趣旨は、中間試案(4)ウに関する中間試案概要と同じである。
 要綱仮案(5)ウの規律の趣旨は、中間試案(4)イただし書に関する中間試案概要と同じである。中間試案からの表現の変更は、判例(最判平成7年6月23日)を踏まえて表現の明確化を図る趣旨のものである(部会資料83-2、32頁)。

現行法

(債権者による担保の喪失等)
第504条 第五百条の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【担保保存義務を免除する特約は有効である】大審院昭和12年5月15日判決・新聞4133号16頁
  Aが,Bに対する融資の担保物件について早期に処分しておれば債務は完済されたはずであるとして,保証人Cが争った事件である。
  民法504条は,債権者をして,法定代位をすることができる者の利益のために担保を保存すべきことを間接的に強制するものであって,この規定は法定代位をすることができる者の利益を保護することを目的とする一種の便宜的規定であり,公益的異議をまったく有するものではなく,法定代位権者が債権者との間でこの規定に基づき享受する利益を予め放棄することは有効である。

A 【同上】最高裁昭和48年3月1日判決・金法679号34頁
  A(信用金庫)が,Bに対する融資について保証していたCに保証債務の履行を求めたところ,Cは,Aの不注意により担保を喪失しているとして,民法504条に基づく免責を主張した。Aの信用金庫取引約定書には,担保保存義務免除特約が定められていた。
  保証人に対する関係における債権者の担保保存義務を免除し,保証人が民法504条により享受すべき利益をあらかじめ放棄する旨を定めた特約は有効であり,本件の事実関係のもとにおいて,Aの請求を認容すべきものとした原審の認定判断は,正当として是認することができる。

B 【担保保存義務を免除する特約は,取引上の通念からみて合理性を有し,代位権者の正当な期待を奪うものでない限り,有効である】最高裁平成7年6月23日判決・民集49巻6号1737頁
  AがBに融資するに際してCが物上保証していたところ,Aが追加融資を行い,B所有不動産を担保に取った。その後,Bが追加融資を弁済したため,B所有不動産に対する担保権を放棄した。AC間では,Aの担保保存義務を免除する特約がなされている。
  保証等の契約及び特約が締結された時の事情,その後の債権者と債務者との取引の経緯,債権者が担保を喪失し又は減少させる行為をした時の状況等を総合して,あらかじめ民法504条に規定する債権者の担保保存義務を免除し,免責の利益を放棄する旨を定める特約行為が,金融取引上の通念から見て合理性を有し,保証人等が特約の文言にかかわらず正当に有し又は有し得べき代位の期待を奪うものとはいえないときは,債権者が特約の効力を主張することは,信義則に反するものではなく,権利の濫用に当たるものでもない。Aが追加担保を放棄したことは金融取引上の通念からみて合理性を有し,不動産を担保として提供したCの追加担保への正常な代位の期待を奪うものといえず,AがCに対して上記特約を主張することは信義則に反することはない。

C 【担保差替え当時の状況のもとにおいて取引上の通念に照らして担保保存義務違反を主張することが信義則に反するとはいえない,とされた事例】最高裁平成2年4月12日判決・金法1255号6頁
  AがBのために保証し,その求償権についてCが保証人となり,Bの山林α上に抵当権を設定していた。その後,Bから,αを造成したので売却して銀行からの借入金弁済に充てたい旨の申出がなされ,代替担保物件としてD所有の山林βが提供されたので,現地を検分し,銀行に評価額を訪ね,付近の分譲地の価格も考慮して8700まんえんと評価して,担保差替えに応じた。その後地価が下落し,最低売却価格を850万円としても買受人が現れず,Aは競売を取り下げている。AC間では担保保存免除特約が締結されていた。
  担保差換えにより結果的に担保が減少し保証人Cの代位の利益を害する結果となることにつきAに故意があるといえないことはもちろん,担保差換え当時の状況のもとにおいて取引上の通念に照らしAに重大な過失があるということもできず,その他AがCに対して担保保存義務免除特約の效力を主張することが信義則に反しあるいは権利の濫用に該当するものとすべき特段の事情があるとはいえないから,AはCに対して担保保存義務免除特約の效力を主張することが許される。

D 【抵当権が設定されている不動産の第三取得者も,担保保存義務違反を主張することができる】最高裁平成3年9月3日判決・民集45巻7号1121頁
  A→B(破産者)→Cと複数の不動産の所有権が移転し,CがDのために当該不動産に抵当権を設定していたところ,結果的に,C→B→Aと所有権が復帰し,Dも一部の不動産上の抵当権を放棄した。Dが残った抵当権を実行したところ,Aが担保保存義務違反を主張した。
  債務者所有の抵当不動産甲と債務者から第三取得者に移転した抵当不動産乙とが共同担保の関係にある場合において,抵当権者が甲不動産上の抵当権を放棄するなど担保を減少したときは,乙不動産の第三取得者もその後の譲受人も民法504条に基づく免責の効果を主張することができる。なぜなら,民法504条は債権者が担保保存義務に違反した場合に法定代位権者の責任が減少することを規定するものであるところ,抵当不動産の第三取得者は,債権者に対して,抵当権をもって把握した不動産の交換価値の限度において責任を負担するにすぎず,債権者が担保を減少させたときは,担保の減少によって償還を受けることができなくなった金額の限度で抵当不動産によって負担するにすぎず,債権者が担保を減少させたときは,担保の減少によって償還を受けることができなくなった金額の限度で抵当不動産によって負担すべき責任は当然に消滅するからである。