債権法改正 要綱仮案 情報整理

第24 相殺

4 相殺の充当(民法第512条関係)

 民法第512条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 債権者が債務者に対して有する一個又は数個の債権と、これと同種の目的を有する債務であって、債権者が債務者に対して負担する一個又は数個の債務について、債権者が相殺の意思を表示した場合には、当事者間に別段の合意がない限り、債権者の有する債権とその負担する債務は、相殺に適するようになった時期の順序に従って、その対当額について相殺によって消滅する。
(2) (1)の場合において、相殺をする債権者の有する債権がその負担する債務の全部を消滅させるのに足りないときは、当事者間に別段の合意がない限り、次に定めるところに従い、充当する。
 ア 債権者が数個の債務を負担するとき(イの規定に該当するときを除く。)は、民法第489条第2号から第4号までを準用する。
 イ 債権者が負担する一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきときは、民法第491条を準用する。この場合において、その債務の費用、利息及び元本のうちいずれかの全部を消滅させるのに足りないときは、民法第489条第2号から第4号までを準用する。
(3) (1)の場合において、相殺をする債権者の負担する債務がその有する債権の全部を消滅させるのに足りないときも、(2)を準用する。

中間試案

5 相殺の充当(民法第512条関係)
  民法第512条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 相殺をする債権者の債権が債務者に対して負担する債務の全部を消滅させるのに足りない場合において,当事者間に充当の順序に関する合意があるときは,その順序に従い充当するものとする。
 (2) 上記(1)の合意がないときは,相殺に適するようになった時期の順序に従って充当するものとする。
 (3) 上記(2)の場合において,相殺に適するようになった時期を同じくする債務が複数あるときは,弁済の充当に関する規律(前記第22,7)のうち,法定充当の規律を準用するものとする。

(概要)

 相殺の充当に関して,合意がある場合には合意に従って充当されることを明らかにするとともに,充当に関する合意がない場合に,複数の債務を相殺するときには,相殺適状となった時期の順序に従って相殺するとした現在の判例法理(最判昭和56年7月2日民集35巻5号881頁)を明文化するものである。もっとも,相殺に遡及効を認める場合には,指定充当を認めることが整合的ではないとする指摘を踏まえて,指定充当を認めないこととして判例法理を修正している。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要と同じである。
 要綱仮案(1)は、当事者間に合意がない限り、相殺適状が生じた順番で相殺の対象になることを明らかにするものであり、最判昭和56年7月2日を明文化するものである。
 要綱仮案(2)は、要綱仮案(1)が適用されることにより、相殺の対象が決まった後の充当に関するルールを規律するものである。要綱仮案(2)アは、一個の自働債権と数個の受働債権とを相殺する場合について、民法489条2号及び4号を準用することとし(同条1号及び3号は準用の余地がないので除外)、指定充当(民法488条)を準用しないこととしている。指定充当の準用の有無について判例は明確ではないが、相殺に遡及効が認められることと、指定充当を認めることが整合的でないこと等から準用しないこととした。
 要綱仮案(2)イは、債権者の負担する債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきときに、民法491条を準用したうえで、その後に民法489条2号と4号を準用することとするものである。
 相殺の充当に関するルールは、相殺をする債権者が有する債権が、債権者が負担する債務の全部を消滅させるのに足りない場合を規律するルールであり、要綱仮案(2)がこれに対応するが、相殺をする債権者が負担する債務が、債権者が有する債権の全部を消滅させるのに足りないこともあり得、この場合も相殺の充当ルールと同じルールが妥当する。そこで、要綱仮案(3)は、同(2)の規律が準用されることを明らかにした(以上につき、部会資料69A、31頁)。

現行法

(相殺の充当)
第512条 第四百八十八条から第四百九十一条までの規定は、相殺について準用する。

(法定充当)
第489条 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
 一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
 二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
 三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
 四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
第491条 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【相殺に関しては,元金が相殺適状になった時期の順序に従って,民法489条,491条の規定による充当を行う】最高裁昭和56年7月2日判決・民集35巻5号881頁
 自働債権又は受働債権として数個の元本債権があり,相殺の意思表示をした者もその相手方も右数個の元本債権につき相殺の順序の指定をしなかった場合における元本債権相互間の相殺の順序については,民法512条,489条の規定の趣旨に則り,元本債権が相殺に供しうる状態となるにいたった時期の順に従うべく,その時期を同じくする複数の元本債権相互間及び元本債権と利息・費用債権との間で充当の問題を生じたときは489条,491条の規定を準用して充当を行うのが相当である。
 本件事例で,貸金のうち最も弁済期(昭和48年)の早く到来する債権α1(310万円)と預金債権のうち最も弁済期(昭和49年)の早く到来するβ1(120万円)がまず相殺適状に達し,それまでのα1の遅延損害金20万円が生じているから,相殺の結果,貸金α1の元金210万円が残る。