第26 契約に関する基本原則
契約自由の原則について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
(2) 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
(3) 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
第27 契約交渉段階
1 契約締結の自由と契約交渉の不当破棄
契約を締結するための交渉の当事者の一方は,契約が成立しなかった場合であっても,これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし,相手方が契約の成立が確実であると信じ,かつ,契約の性質,当事者の知識及び経験,交渉の進捗状況その他交渉に関する一切の事情に照らしてそのように信ずることが相当であると認められる場合において,その当事者の一方が,正当な理由なく契約の成立を妨げたときは,その当事者の一方は,これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。
(注)このような規定を設けないという考え方がある。
第 26 契約に関する基本原則等
1 契約内容の自由
契約の当事者は,法令の制限内において,自由に契約の内容を決定することができるものとする。
第27 契約交渉段階
1 契約締結の自由と契約交渉の不当破棄
契約を締結するための交渉が開始されても,交渉の当事者は契約を締結するかどうかを自由に決定することができ,結果的に契約の成立に至らなかったとしても,互いに,相手方に対して契約が成立しなかったことによる損害を賠償する義務を負わないのが原則である。本文第1文は,この原則を明らかにするものである。もっとも,交渉の当事者が契約を締結する自由を有するということ自体は,一種の原則や理念にすぎず,私法上の効果を持つものではないことから,ここでは,契約が成立しなかった場合でも損害賠償責任を負わないという私法上の効果のみを規定することとし,契約締結の自由の原則は間接的に示
すにとどめている。
もっとも,契約交渉の一方の当事者が契約の成立が確実であると信じて費用を支出した後に,他方の当事者が正当な理由なく契約締結を拒絶した場合などの個別の事実関係の下で,信義則上の義務違反を理由に,契約の締結を拒絶した当事者が相手方に対して損害賠償責任を負うとした裁判例もあり,学説上も,契約を締結するかどうかの自由に対する信義則上の制約があることは支持されている。そこで,これを踏まえ,本文第2文では,契約交渉の当事者が契約の成立が確実であると信じ,かつ,そのように信ずることが相当であると言える段階に至っていた場合に,その後に他方の当事者が正当な理由なく契約の成立を妨げたときは,それによって生じた損害を賠償しなければならないこととしている。契約の成立を妨げるとは,典型的には,交渉の当事者が自ら契約の締結を拒絶した場合であるが,交渉の当事者が不誠実な交渉態度に終始したために,相手方が契約の締結を断念せざるを得なくなった場合も含まれる。
以上に対して,本文のような規定は民法第1条第2項と重複するものであって敢えて設ける必要はなく,信義則の具体化は個々の事案における個別の事情に即した妥当な解決を阻害するおそれがあるとして,このような規定を設けるべきでないという考え方もあり,これを(注)で取り上げている。
第26 契約に関する基本原則等
1 契約内容の自由
契約自由の原則のうち契約内容を決定する自由について,新たに明文の規定を設けるものである。いわゆる契約自由の原則について民法は明文の規定を設けていないが,これが契約に関する基本原則の一つであることは異論なく認められている。このような基本原則は,できる限り条文に明記されることが望ましいと考えられる。契約自由の原則の中でも契約内容を決定する自由は,単に原則や理念であるにとどまらず,契約内容が当事者の合意によって定まるという私法上の効果を持つものであり,比較的条文化になじみやすい。以上を考慮して,本文では,契約自由の原則のうち契約内容を決定する自由のみを取り上げ,規定を設けることとしている。
本文では,契約の当事者が契約の内容を自由に決定することができることと併せて,契約内容を決定する自由には法令による制約があることを明記している。この法令には,具体的には,民法第90条やその他の強行規定が含まれる。
要綱仮案(1)は、契約自由の原則のうち、契約締結の自由及び相手方選択の自由を、同(2)は、方式の自由を、同(3)は、契約内容を決定する自由を、それぞれ明文化するものである。中間試案においては、内容決定の事由のみを規定するものとされたが、バランスを失することから契約締結の自由、相手方選択の自由、方式の自由も含めて明文化するものとされた(部会資料75A、1頁)。
なお、契約交渉の不当破棄については、見解が一致せず、規律を設けることが見送られた(部会資料80B、10頁、部会資料82-2、9頁)。
【契約自由の原則により敷金の額は自由に決定できる】大阪地裁平成17年10月20日判決・金商1234号34頁
BがA1から商業ビルを賃借し,敷金として1億1000万円を差し入れた(賃料200万円の55カ月分)。Bが,抵当権実行による所有権を取得したA2に対して,敷金返還を求めた。
敷金の額は,地域により金額に開きがあり,商業目的や好立地であれば高くなる。当事者は,賃料額,目的物に対する必要性,需要の度合い等様々な要素を勘案しつつ敷金額を合意するのであるから,敷金の額については契約自由の原則が支配する領域である,として,1億1000万円は全額敷金であると認定した。