債権法改正 要綱仮案 情報整理

第26 契約に関する基本原則

2 履行の不能が契約成立時に生じていた場合

 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であった場合について、次のような規律を設けるものとする。
 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第11に従ってその債務の履行が不能であることによって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

中間試案

2 履行請求権の限界事由が契約成立時に生じていた場合の契約の効力
  契約は,それに基づく債権の履行請求権の限界事由が契約の成立の時点で既に生じていたことによっては,その効力を妨げられないものとする。

(注)このような規定を設けないという考え方がある。

(概要)

 契約に基づく債務の履行が契約成立時に既に物理的に不可能になっていた場合など,履行請求権の限界事由(前記第9,2)が契約成立時に既に生じていた場合であっても,そのことのみによっては契約の効力は否定されない旨の規定を新たに設けるものである。そのような場合に契約が有効であるかどうかは一律に定まるものではなく,当事者が履行請求の可能性についてどのようなリスク分配をしたかに委ねるべきであるという考え方に基づく。このような規定の下でも,履行請求権の限界事由が生ずることが契約が有効であるための解除条件となっている場合には当該契約は無効となる(民法第131条第1項参照)ほか,履行請求権の限界事由が生じていないと当事者が信じて契約を締結した場合には錯誤を理由に当該契約を取り消すことができる場合があり得る(民法第95条,前記第3,2参照)。
 これに対し,履行請求権の限界事由が契約成立の時点で生じていた場合は,実務上は契約は無効であると考えられているという理由や,契約が有効であるか無効であるかは個々の事案ごとの個別具体的な解釈に委ねるのが相当であるという理由を挙げて,本文のような規定を設けないという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要と同じである。契約の効力が妨げられないという消極的な表現によって、具体的にどのような法的効果が導かれるかが明らかでないとして、最も代表的な法的効果としての損害賠償を取上げて明記したと説明されている(部会資料83-2、35頁)。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【契約締結時点において履行不能であれば原則として無効となる】最高裁昭和25年10月26日判決・民集4巻10号497頁
 Cが所有する不動産について,その不動産に居住するBがこれをAに対して売却する売買契約を締結した。
 一般に契約の履行がその契約締結の当初において客観的に不能であれば,その契約は不可能な事項を目的とするものとして無効となることはそのとおりであるが,他人物の売買では,その目的物の所有者が契約当初からその物を他に譲渡する意思がなく,したがって,売主においてこれを取得して買主に移転することができないような場合であっても売買契約はなお有効に成立する。