債権法改正 要綱仮案 情報整理

第27 契約の成立

1 申込みと承諾

 申込みと承諾について、次のような規律を設けるものとする。
 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

中間試案

1 申込みと承諾
 (1) 契約の申込みに対して,相手方がこれを承諾したときは,契約が成立するものとする。
 (2) 上記(1)の申込みは,それに対する承諾があった場合に契約を成立させるのに足りる程度に,契約の内容を示したものであることを要するものとする。

(概要)

 本文(1)は,申込みと承諾によって契約が成立するという基本的な法理を新たに明文化するものである。民法が暗黙の前提としている法理を明示するとともに,これにより後記2以下で提示する申込みや承諾の法的意味をより明瞭にすることを意図するものである。なお,本文の規律は,申込みと承諾とに整理することが必ずしも適当でない態様の合意(いわゆる練り上げ型)によっても契約が成立し得ることを否定するものではない。
 本文(2)は,申込みという用語の意味を一般的な理解に従って明文化するものである。申込みは,相手方に申込みをさせようとする行為にすぎない申込みの誘引と異なり,承諾があればそれだけで契約を成立させるという意思表示であるため,契約内容を確定するに足りる事項が提示されている必要があることから,これを定めている。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案(1)に関する中間試案概要のとおりである。どの程度内容が確定していれば申込みであると評価できるかについてはなお解釈に委ねる趣旨で、中間試案(2)の規律を設けることは見送られた(部会資料67A、44頁)。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【自動販売機の設置は申込の誘引である,とされた事例】大阪地裁平成15年7月30日判決・金判1181号36頁
  AがB場外馬券売場に設置された自動販売機で馬券を購入したところ,投入したマークシートが途中で詰まり勝馬投票券を購入できなかった。機能しておれば当たり馬券であったとして,損害賠償請求した。
  自動販売機の特質からすれば,自動販売機を設置したのみでは,具体的に特定された売買契約締結に向けての設置者の効果意思が外部に表示されているものとは認め難いので,設置者が自動販売機を設置する行為それ自体は,売買契約の申込みには当たらず,申込みの誘引と解するのが相当である。
  自動販売機に現金及び投票カードが投入され,投票内容が正常に受け付けられた場合,自動販売機の画面上には,「計算機に接続しています」との表示とともに投票カードに付されたマークシートの内容を表示した画面が現れる。勝馬投票券の購入契約においては,上記表示が画面上に現れた時点において,Bが購入者の購入申込みに対し承諾の意思表示を行い,これにより,Bと購入者との間で勝馬投票券の購入契約が成立すると解するのが相当である。

A 【インターネットショッピングサイトの広告は申込みの誘引である,とされた事例】東京地裁平成17年9月2日判決・判時1922号105頁
  Aは,ネットショッピングサイト上に,Bが掲示したパソコン1台2,700円の広告をみて,これを購入した。
  インターネットのショッピングサイト上に商品・価格等を表示する行為は,店頭で販売する場合に商品を陳列することと同様の行為であると解するのが相当であるから,申込の誘引に当たるというべきである。そして,買い手の注文は申込みに当たり,売り手が買い手の注文に対する承諾をしたときに契約が成立するとみるべきである。本件では,Bが承諾していない。

B 【契約書作成前の時点では契約が成立していないとした事例】東京地裁昭和63年2月29日判決・判タ675号174頁
  「売買代金を16億円,うち12.8億円を売買契約締結時に支払う,違約金を3.2億円とする」等の合意がなされ,売渡承諾書,買付証明書がそれぞれ交付された。その後,買主に対する代金の融資ができずに売買契約書作成に至らなかった。売主が違約金を請求した事件。
  高額の不動産売買では,売買の基本条件の概略について合意に達した段階で,売渡承諾書,買付証明書を作成したうえで,更に交渉を重ね,細目にわたる具体的な条件すべてについて合意に達したところで最終的に正式な売買契約書の作成に至るのが通例である。上記の段階では,確定的な意思表示が留保されており,売買契約は成立するに至っていない。請求棄却。

C 【同上】東京地裁平成17年2月23日判決・判時1946号82頁
  スーパーの社長が「コンサル会社のパソコンシステムをすべて言い値で買い取る」旨の確約書を提出した。コンサル会社は代金として5億円を請求した事件。
  確約書は社長の個人的意思を表明したに過ぎない。確約書が提出された後においても両者間で売買契約の成否・内容について検討されていない。売買代金が5億円の売買契約の成立に至るには,当事者双方で契約内容の概要を確認したうえで,目的物,代金額を確定するとともに,支払期限,支払方法,違約罰等の諸条件を交渉によって確定し,そのうえで会社の代表者印を押した売買契約書が作成されるはずである。しかしながら,契約書は作成されていない。請求棄却。

D 【契約書が作成されていなくても契約が成立したとされた事例】東京高裁平成6年2月23日判決・判時1492号92頁
  「相続人らの一部が遺産分割によって取得した土地を,1坪あたり55.5万円で売却する,実測により代金を精算する,その他の条件については協議により定める」旨の覚書が締結された。その後の交渉が進まず,売主から解除して土地評価額の下落分の損害賠償を請求した事件。(売買代金は,5.6億円。)
  売買は売主がある財産を買主に移転することを約し,買主がこれに代金を支払うことを約することによってその効力を生じる。当事者は,これ以外の事項について合意することはあっても,当事者がこれらの事項を売買の要素としない限りは,この点の合意が成立していない段階においても売買が成立したものということができる。本件において契約書の作成が予定されていたものと推認されるが,契約書の作成によって契約を成立させるという意思を有していたものとは認められない。損害賠償として5000万円を認容。