債権法改正 要綱仮案 情報整理

第30 売買

9 権利を失うおそれがある場合の買主による代金支払の拒絶(民法第576条関係)

 民法第576条の規律を次のように改めるものとする。
 売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができないおそれがあるとき、又はこれを失うおそれがあるときは、買主は、その危険の限度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。

中間試案

12 権利を失うおそれがある場合の買主による代金支払の拒絶(民法第576条関係)
  民法第576条の規律を次のように改めるものとする。
  売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により,買主がその買い受けた権利の全部又は一部を取得することができないおそれがあるとき,又はこれを失うおそれがあるときは,買主は,その危険の程度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができるものとする。ただし,売主が相当の担保を供したときは,この限りでないものとする。

(概要)

 買主による代金支払拒絶権を定める民法第576条については,買主が既に取得した権利を失うおそれがある場合に加え,買主が権利の取得前にそれを取得することできないおそれがある場合にも適用があると解されている。本文は,このことを規定上も明らかにするとともに,代金支払拒絶権の行使要件である「売買の目的について権利を主張するものがあること」を,権利の喪失又は権利の取得不能を疑うにつき客観的かつ合理的な理由を要することを示すための一つの例示と見て,これと同等の事由がある場合もカバーするために「その他の事由」を付加するものとしている。

赫メモ

 中間試案からの変更はない(中間試案概要、参照)。

現行法

(権利を失うおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第576条 売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは、買主は、その危険の限度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=売主,B=買主)
@ 【詐害行為取消しを理由とする代金支払拒絶】 東京地裁平成8年4月28日判決・判時1584号121頁
  不動産が譲渡され(売買代金1億3000万円),不動産上に設定してある根抵当権の被担保債権については,買主が履行を引き受け,売買代金残額1億2500万円の中から支払う旨の合意がなされたところ,売主の債権者が詐害行為を理由として処分禁止の仮処分を行い,その後競売開始決定がなされて,不動産は競売手続により売却された。
  売買契約自体が詐害行為にあたるとして第三者からその取消を求められている場合であっても,買主は買い受けた権利を喪失するおそれがあることに変わりないため,買主は,民法576条の類推適用により,売主からの代金の全部又は一部の弁済を拒むことができる。また,競売手続が完了した以上,567条により契約を解除することができる。

A 【競売手続進行を理由とする代金支払拒絶】 東京高裁平成8年7月31日判決・判時1578号60頁
  借地上の建物について借地人が建物買取請求権を行使したところ,建物の時価(370万円)以上の根抵当権(極度額合計3300万円)が設定され,競売開始決定がなされていた。
  競売手続が進行すれば建物の所有権を喪失するおそれがあるところ,その地位の不安定性に鑑みれば,買主は,民法576条の類推適用により,競売手続中は代金の支払を拒絶できる。判決主文は,売買代金の供託と引き換えに,移転登記手続を行い,建物を明け渡せ。