債権法改正 要綱仮案 情報整理

第30 売買

11 買戻し(民法第579条ほか関係)

(1) 民法第579条の規律を次のように改めるものとする。
 ア 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、売主が提供すべき金額について別段の合意があるときは、その合意に従う。
 イ アの場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
(2) 民法第581条第1項の規律を次のように改めるものとする。
 買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を有する。

中間試案

15 買戻し(民法第579条ほか関係)
  買戻しに関する民法第579条から第585条までの規律を基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。
 (1) 民法第579条の規律に付け加えて,売主が返還すべき金額について当事者に別段の合意がある場合には,それに従うものとする。
 (2) 民法第581条第1項を次のように改めるものとする。
   買戻しの特約を登記したときは,買戻しは,第三者に対しても,その効力を有するものとする。

(概要)

 本文(1)は,民法第579条が規定する買戻権の行使に際して売主が返還すべき金額につき,当事者の合意により定めることができる旨の規定に改めるものである。同条は,買戻権の行使に際して売主が返還すべき金額を強行的に規定しているとされるが,当事者の合意による修正を肯定すべきであるとの指摘があることを踏まえたものである。
 本文(2)は,民法第581条第1項の「売買契約と同時に」という文言を削り,買戻しの特約の登記が売買契約の登記(売買を原因とする所有権の移転の登記)より後にすることができるものと改めるものである。
 なお,買戻特約付の売買契約という形式が採られていたとしても,それが債権担保の目的で締結されたものである場合には,その性質は譲渡担保契約であり,民法第579条以下の買戻しの規定は適用されないとするのが判例である(最判平成18年2月7日民集60巻2号480頁等)。本文(1)(2)は,このような判例法理に影響を与えることを意図するものではない。

赫メモ

 中間試案からの変更はない(中間試案概要、参照)。

現行法

(買戻しの特約) 
第579条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。

(買戻しの特約の対抗力)
第581条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を生ずる。
2 登記をした賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=売主,B=買主)
@ 【代金の一部が未払いである場合,買戻しの提供に際しては,未払い部分を控除した額を提供すれば足りる】大審院大正10年9月22日判決・民集★巻
  AがBに対して買戻し特約付きで売却した不動産について,Bが代金の一部を支払っていなかった。Aは買戻しに際して,現実に受領した代金のみを提供した。
  民法583条は買主を保護するために売主をして買戻しの意思表示とともに代金及び費用の提供をなさしむる規定なるが故に,売主の提供すべき代金は買主において支払った代金の範囲を超える必要なきことは明らかなれば,売主にして,いまだ代金全部の支払いを受けない場合は,その未払い部分を控除し残額を提供するをもって足りる。

A 【買戻特約付売買契約の形式が取られていても,目的不動産を何らかの債権担保とする目的で締結されたときは,譲渡担保契約と解される】最高裁平成18年2月7日判決・民集60巻2号480頁
  Bは,A´に対する貸金を有していたが,A´が経営するA社の不動産αを買戻特約付で,750万円で譲渡を受けた。ただし,BがAに対して支払った代金は貸金の利息等を差し引いた370万円であった。買戻期間が経過したが,Aは買戻しを実行せず,BがAに対してαの引渡しを求めた。
  真正な買戻特約付売買契約においては,売主は,買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ,目的不動産を取り戻すことができなくなり,目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も,買主は,譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務を負わない。このような効果は,当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。真正な買戻特約付売買契約であれば,売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である。