債権法改正 要綱仮案 情報整理

第3 意思表示

3 詐欺(民法第96条関係)

 民法第96条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。(民法第96条第1項と同文)
(2) 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
(3) (1)又は(2)による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

中間試案

3 詐欺(民法第96条関係)
 民法第96条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができるものとする。
 (2) 相手方のある意思表示において,相手方から契約の締結について媒介をすることの委託を受けた者又は相手方の代理人が詐欺を行ったときも,上記(1)と同様とする(その意思表示を取り消すことができる)ものとする。
 (3) 相手方のある意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,上記(2)の場合を除き,相手方がその事実を知り,又は知ることができたときに限り,その意思表示を取り消すことができるものとする。
 (4) 詐欺による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができないものとする。

(注)上記(2)については,媒介受託者及び代理人のほか,その行為について相手方が責任を負うべき者が詐欺を行ったときも上記(1)と同様とする旨の規定を設けるという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,民法第96条第1項を維持するものである。
 本文(2)は,相手方のある意思表示において,相手方の代理人が詐欺を行った場合には相手方本人が悪意であるかどうかにかかわらず意思表示を取り消すことができるという判例法理(大判明治39年3月31日民録12輯492頁)を明文化するとともに,相手方から契約締結の媒介の委託を受けた者が詐欺を行った場合にも,同様に,相手方本人が悪意であるかどうかにかかわらず意思表示を取り消すことができる旨の新たな規定を設けるものである。相手方から媒介の委託を受けた者が詐欺を行った場合に相手方の悪意を要件とせずに取消しを認めるのは,この場合も,代理人の場合と同様に相手方が契約の締結に当たって使用した者であることから,相手方が詐欺を知らなかったことを理由に取消権の行使を阻むのは公平に反すると考えられるからである。さらに,媒介受託者及び代理人に限るのでは狭すぎるとして,相手方が当該意思表示に関して使用した補助者としての地位にある者が詐欺を行った場合には,相手方本人が詐欺を行った場合と同視すべきであるという考え方があり,この考え方を(注)で取り上げている。もっとも,この考え方を採るのであれば,相手方本人の詐欺と同視し得る者の基準が明確になるよう,更に検討が必要である。
 本文(3)は,第三者による詐欺が行われた場合に表意者が意思表示を取り消すことができるのは,相手方本人が第三者による詐欺を知っていたときだけでなく,知ることができたときも含むこととするものである。第三者の詐欺について善意の相手方に対して意思表示を取り消すことができないこととするのは,当該意思表示が有効であるという信頼を保護するためであるから,その信頼が保護に値するもの,すなわち相手方が無過失であることが必要であると指摘されている。また,表意者の心裡留保については,相手方が善意であっても過失があれば意思表示が無効とされることとのバランスから,第三者の詐欺による意思表示についても,相手方本人がそれを知ることができたときは取消しが認められるべきであるという指摘がある。本文(3)は,これらの指摘を理由とするものである。
 本文(4)は,詐欺による意思表示を前提として新たに法律関係に入った第三者が保護されるための要件について,第三者の信頼は保護に値するものである必要があり,第三者の無過失を要するという学説の多数に従い,善意無過失という要件に改めるものである。

赫メモ

 中間試案(1)(3)(4)と同じである(中間試案概要の該当箇所参照)。中間試案(2)の規律(媒介受託者、代理人その他の者による詐欺の規律)を設けることは、見送られた(部会資料66A、4頁)。

現行法

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり