債権法改正 要綱仮案 情報整理

第31 贈与

2 贈与者の瑕疵担保責任(民法第551条関係)

 民法第551条第1項の規律を次のように改めるものとする。
 贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。

中間試案

2 贈与者の責任(民法第551条関係)
  民法第551条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 贈与者は,次に掲げる事実について,その責任を負わないものとする。ただし,贈与者がこれらの事実を知りながら受贈者に告げなかったときは,この限りでないものとする。
  ア 贈与によって引き渡すべき目的物が存在せず,又は引き渡した目的物が当該贈与契約の趣旨に適合しないものであること。
  イ 贈与者が贈与によって移転すべき権利を有さず,又は贈与者が移転した権利に当該贈与契約の趣旨に適合しない他人の権利による負担若しくは法令の制限があること。
 (2) 他人の権利を贈与の内容とした場合(権利の一部が他人に属する場合を含む。)であっても,贈与者がその権利を取得した場合には,その権利を受贈者に移転する義務を負うものとする。
 (3) 上記(1)に掲げる事実があることにより,受贈者が贈与契約をした目的を達することができないときは,受贈者は,贈与契約の解除をすることができるものとする。
 (4) 負担付贈与の受贈者は,贈与者が贈与契約によって引き渡すべき目的物又は移転すべき権利に上記(1)に掲げる事実があることにより,受贈者の負担の価額がその受け取った物又は権利の価額を超えるときは,受贈者は,その超える額に相当する負担の履行を拒み,又は履行した負担の返還を請求することができるものとする。この場合において,負担を返還することができないときは,負担の価額の償還を請求することができるものとする。

(注)上記(1)から(3)までについては,贈与者の履行義務並びにその不履行による損害賠償及び契約の解除に関する規律をそれぞれ一般原則に委ねるという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,贈与者の責任に関する民法第551条の実質的な規律内容を維持しつつ(契約の解除については後述する。),「瑕疵」から「契約の趣旨に適合しないものであること」に改めるなど,主に概念の用い方につき,売買契約における売主の責任に関する規定の見直し(前記第35,3)と平仄を合わせる観点からの見直しをするものである。もとよりこれは任意規定であり,贈与者がこれよりも厳格な責任を負担する約定の効力を否定する趣旨ではない。この点については,贈与契約についても,贈与者につき契約責任の一般原則と異なる規律を設ける合理性はないとして,物又は権利が契約の趣旨に適合しない場面における贈与者の履行義務や,債務不履行による損害賠償及び契約に解除に関する規律をそれぞれ一般原則に委ねるとの考え方があり,これを(注)で取り上げている。
 本文(2)は,他人物贈与につき,贈与者が他人に属する権利を自ら取得して受贈者に移転する義務は負わないが,その権利を相続等により取得した場合には,それを受贈者に移転する義務を負うものとするものである。
 本文(3)は,本文(1)によりに贈与者が履行又は損害賠償の責任を免れる場合であっても,本文(1)に掲げる事実があることにより贈与契約をした目的を達することができないときは,受贈者は,贈与契約の解除ができるとするものである。本文(1)に掲げる事実につき,贈与者が履行又は損害賠償の責任を負わないとしても,その事実によって贈与契約をした目的が達せられないときには,契約を解消する手段受贈者に認めるのが適切であると考えられることによる。
 本文(4)は,負担付贈与の贈与者の担保責任について規定する民法第551条第2項につき,その規律内容に関する一般的な理解に従い,規定内容の明確化を図るものである。この規定は,贈与者が本文(1)により責任を負わない場合にも適用される。

赫メモ

 民法551条1項は、贈与の瑕疵担保責任について、贈与の無償性を考慮して贈与者の責任を軽減することとしているが、要綱仮案は、同条項の実質的な規律内容は維持するものである。もっとも、民法551条1項の表現は特定物ドグマに立脚しているとの誤解を招くおそれがあるので妥当でない。要綱仮案では、契約に適合したものの移転等をすることが贈与者の債務の内容となることを基本的な前提とした上で、贈与契約においては、当事者の意思に照らすと、その内容はより軽減されたものであるのが通常であるとの整理に基づき、意思推定の規定として設けることとした。贈与の目的となることが特定した時の状態とは、特定物贈与においては贈与契約のときの状態であり、種類物贈与においては目的が特定した時の状態である(以上につき部会資料81B、19頁)。

現行法

(贈与者の担保責任)
第551条 贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。
2 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

東京地裁平成6年5月27日判決・金法1443号44頁
 ノンバンクBが債務者Cに1億2000万円融資し,Cはその融資金で銀行Aに対する債務を弁済し,銀行Bが保有していた根抵当権をBが譲り受けた。ところが,後日,根抵当権設定が無効であることが判明した。
 ノンバンクBの債務者Cに対する融資と銀行AのノンバンクBに対する根抵当権の譲渡の間に対価関係があると認めることはできず,根抵当権譲渡契約が有償契約であるとは認められない。損害賠償請求を棄却した。