債権法改正 要綱仮案 情報整理

第32 消費貸借

6 期限前弁済(民法第591条第2項・第136条第2項関係)

 民法第591条第2項の規律を次のように改めるものとする。
 借主は、いつでも返還をすることができる。当事者が返還の時期を定めた場合において、借主がその時期の前に返還をしたことによって貸主に損害が生じたときは、貸主は、その損害の賠償を請求することができる。

中間試案

6 期限前弁済(民法第591条第2項,第136条第2項関係)
  民法第591条第2項の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,いつでも返還をすることができるものとする。
 (2) 当事者が返還の時期を定めた場合であっても,借主は,いつでも返還をすることができるものとする。この場合において,貸主に損害が生じたときは,借主は,その損害を賠償しなければならないものとする。

(概要)

 本文(1)は,民法第591条第2項の規定を維持するものである。同項は,一般に同条第1項に引き続いて返還時期の定めのない消費貸借について定めた規定であると解されている。
 本文(2)は,民法第136条第2項の規定について,その適用が最も問題となる消費貸借の場面に即した規律を設けることによって,消費貸借のルールの明確化を図るものである。同項の規律の内容を変更する趣旨のものではない。前記1(4)と同様,損害の内容については個別の判断に委ねることとしている。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。

現行法

(返還の時期)
第591条 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
2 借主は、いつでも返還をすることができる。

(期限の利益及びその放棄)
第136条 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=貸主,B=借主)
@ 【利息制限法1条1項,2項の規定は民法136条1項但書の規定の適用を排除する趣旨である】最高裁平成15年7月18日判決・民集57巻7号895頁
  A(貸金業者)・B間で継続的貸付契約が締結され,AがBに対して手形貸付を行い過払金が発生していたが,さらに,AがBに対して400万円の手形貸付を行った。この時点ですでに過払金が400万円に達していた。
  (他の貸付金により発生した過払金の元金充当は,期限前弁済と同視できるが)利息制限法1条1項,2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条1項但書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,過払金が充当される他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されず,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできない。
  判例解説(「H15年度判解19事件」)には,「本判決は,借入金の期限前弁済に際して貸主が約定の期限までの利息を取得することができるか否かについて一般的論を判示するものではない」旨の記載がある(472頁)。

@-2 【期限前弁済に関する違約金条項について,適格消費者団体による差止請求が認容された事例】京都地裁平成21年4月23日判決・判時2055号123頁
  適格消費者団体がA(貸金業者)に対して,「貸付金の残元金を期限前に弁済する義務が発生した場合に,借主が返済する元金に対し3%の割合による違約金を負担するとの契約条項を含む契約の締結を停止せよ」との差止め請求をした。
  判例@は,金銭消費貸借契約一般について,民法136条2項但書の適用を排除したものではないのであって,約定利率が利息制限法所定の制限利率を上回っているか否かに関係なく金銭消費貸借一般について同但書が適用されないとはいえない。しかし,貸付利率が利息制限法所定の制限利率を超える場合に,上記条項を含んだ契約が締結されると,上記最判の趣旨に反して充当されるべき元本に対する期限までの利息の取得を認めるのと等しいような内容の合意が成立したことになり,本件条項は民法の規定による消費者の義務を加重するものとして機能することになる。本件条項は貸付利率などによっては消費者の義務を加重したことになる。