債権法改正 要綱仮案 情報整理

第33 賃貸借

8 賃貸物の修繕等(民法第606条第1項関係)

 民法第606条第1項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要になったときは、この限りでない。
(2) 賃貸物の修繕が必要である場合において、次のいずれかに該当するときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
 ア 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
 イ 急迫の事情があるとき。

中間試案

8 賃貸物の修繕等(民法第606条第1項関係)
  民法第606条第1項の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 賃貸人は,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うものとする。
 (2) 賃借物が修繕を要する場合において,賃借人がその旨を賃貸人に通知し,又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないときは,賃借人は,自ら賃借物の使用及び収益に必要な修繕をすることができるものとする。ただし,急迫の事情があるときは,賃借人は,直ちに賃借物の使用及び収益に必要な修繕をすることができるものとする。

(注)上記(2)については,「賃貸人が上記(1)の修繕義務を履行しないときは,賃借人は,賃借物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる」とのみ定めるという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,民法第606条第1項の規定を維持するものである。
 本文(2)は,賃借人の修繕権限について定めるものである。民法第608条第1項が含意しているところを明文化するものであるが,賃借物は飽くまで他人の所有物であることから,賃借人が自ら修繕し得る要件については,契約に別段の定めがない限り,修繕の必要が生じた旨を賃貸人に通知し(民法第615条参照。通知の到達に関しては前記第3,4(2)(3)参照),又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が必要な修繕をしないことを要するとする一方で,急迫な事情がある場合には例外を許容することとしている。
 もっとも,あらゆる場面に妥当する細かな要件を一律に設けるのは困難であるとして,「賃貸人が修繕義務を履行しないとき」という比較的抽象度の高い要件を定めた上で,その解釈・運用又は個別の合意に委ねるべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。なお,賃借人が必要な修繕をしたことにより民法第608条第1項の必要費償還請求権が生ずるかどうかは,同項の要件を満たすかどうかによって決せられるため,当該修繕が本文(2)の修繕権限に基づくものかどうかという問題とは切り離して判断されることを前提としている。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。ただし、中間試案においては賃借人に帰責事由がある場合の賃貸人の修繕義務についての規律は設けていなかった。しかし、衡平の観点から、かかる場合に修繕義務を負わせるべきでなく、また、賃借人の帰責事由の有無により権利義務の取扱いを異にしている他の規律(要綱仮案10(1)、13(3))との平仄を合わせる必要があることから、要綱仮案ではただし書の規律を設けるものとされた。

現行法

(賃貸物の修繕等)
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり