債権法改正 要綱仮案 情報整理

第33 賃貸借

10 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(民法第611条関係)

 民法第611条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
(2) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

中間試案

10 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(民法第611条関係)
  民法第611条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 賃借物の一部が滅失した場合その他の賃借人が賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなった場合には,賃料は,その部分の割合に応じて減額されるものとする。この場合において,賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなったことが契約の趣旨に照らして賃借人の責めに帰すべき事由によるものであるときは,賃料は,減額されないものとする。
 (2) 上記(1)第2文の場合において,賃貸人は,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを賃借人に償還しなければならないものとする。
 (3) 賃借物の一部が滅失した場合その他の賃借人が賃借物の一部の使用及び収益をすることができなくなった場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができるものとする。

(注)上記(1)及び(2)については,民法第611条第1項の規律を維持するという考え方がある。

(概要)

 本文(1)第1文は,民法第611条第1項の規定を改め,賃借物の一部滅失の場合に限らず賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合一般を対象として賃料の減額を認めるとともに,賃借人からの請求を待たずに当然に賃料が減額されることとするものである。賃料は,賃借物が賃借人の使用収益可能な状態に置かれたことの対価として日々発生するものであるから,賃借人が賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合には,その対価としての賃料も当然にその部分の割合に応じて発生しないとの理解に基づくものである。
 本文(1)第2文は,賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことが賃借人の責めに帰すべき事由によるものであるときは,本文(1)第1文の例外として賃料の減額はされない旨を定めるものである。これは,賃料債務の発生根拠に関する上記理解を踏まえたとしても,賃借人に帰責事由がある場合にまで賃料の減額を認めるのは相当でないとの指摘を踏まえたものであり,この限りにおいて民法第611条第1項の規定を維持するものである(請負,委任,雇用,寄託の報酬請求権に関する後記第40,1(3),第41,4(3)イ,第42,1(2),第43,6参照)。
 本文(2)は,賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことによって,賃貸人が賃貸借契約に基づく債務(例えば当該部分のメンテナンスに関する債務)を免れ,これによって利益を得たときは,それを賃借人に償還しなければならない旨を定めるものである。民法第536条第2項後段の規律を取り入れるものであり,同法第611条第1項の下では従前必ずしも明らかではなかった規律を補うものである。もっとも,以上の本文(1)(2)に対しては,現行の民法第611条第1項の規律のほうが合理的であるとして,同項の規律を維持すべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。
 本文(3)は,民法第611条第2項の規定を改め,賃借物の一部滅失の場合に限らず賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合一般を対象として賃借人の解除権を認めるとともに,賃借人の過失によるものである場合でも賃借人の解除権を認めることとするものである。賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことによって賃借人が賃借をした目的を達することができない以上,それが一部滅失によるものかどうか,賃借人の過失によるものかどうかを問わず,賃借人による解除を認めるのが相当であると考えられるからである。賃貸人としては,賃借人に対する損害賠償請求等によって対処することになる。

赫メモ

 要綱仮案(1)の規律の趣旨は、中間試案(1)に関する中間試案概要のとおりである。
 要綱仮案(2)の規律の趣旨は、中間試案(3)に関する中間試案概要のとおりである。
 中間試案(2)の規律については、要綱仮案第13、2(2)の規律との重複を避ける趣旨で、当該規律を設けることが見送られた(部会資料81-3、15頁)。

現行法

(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
第611条 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=賃貸人,B=賃借人)
@ 【借地の利用が全面的に不能であったとは認められず,賃借人は当然に賃料の支払義務を免れるわけではない】最高裁昭和34年12月4日判決・民集13巻12号1588頁
  借地人Bが所有する建物が滅失した後に,土地が区画整理施行区域に指定され,昭和22年以降,Bが地主Aに対する地代の支払いをしなかった。昭和23年に土地が学校敷地に指定され,Bは市から学校敷地になる予定であるから家を立てないように非公式に注意された。地主Aが,昭和22年,23年における地代不払いを理由に借地契約を解除した。(その後,土地の周辺に柵が作られ,学校敷地が正式決定すれば,建築許可はしない旨告知された。)
  昭和22年,23年の間は,借地人の使用収益が全面的に不能であったものとは認められないので,Aが賃料支払い義務を当然に免れたものということはできない。
  判例解説(「昭和34年判解87事件」265頁)には「賃貸借における賃料はすでになされた使用収益に対して支払うべきものとする大審院判例に反対の立場をとるものである」旨の記載がある。

@-2 【賃料の25%の減額を認めた事例】名古屋地裁昭和62年1月30日判決・判時1252号83頁
  AがBに賃貸していた家屋の2階部分に雨漏りし,BがAに対して修繕を請求したがAが修繕しないため,その3分の2が使用できないとして,Bは賃料減額請求した。
  家屋2階部分の少なくとも3分の2がAの修繕義務の不履行によって,約2年間使用できない状態にあったことが認められる。修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には,賃借人は,当然には賃料支払い義務を免れないが,民法611条1項の規定を類推して,賃借人は賃料減額請求権を有するとして,賃料全体の25%の減額を認めた。