債権法改正 要綱仮案 情報整理

第33 賃貸借

11 転貸の効果(民法第613条関係)

 民法第613条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と転貸人との間の賃貸借に基づく債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。
(2) (1)の場合において、転借人は、転貸借契約に定めた当期の賃料を前期の賃料の弁済期以前に支払ったことをもって賃貸人に対抗することができない。
(3) (1)及び(2)の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
(4) 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、転貸人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、当該解除の当時、転貸人の債務不履行により賃貸人と転貸人との間の賃貸借を解除することができたときは、この限りでない。

中間試案

11 転貸の効果(民法第613条関係)
  民法第613条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,賃貸人は,転借人が転貸借契約に基づいて賃借物の使用及び収益をすることを妨げることができないものとする。
 (2) 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,転借人は,転貸借契約に基づく債務を賃貸人に対して直接履行する義務を負うものとする。この場合において,直接履行すべき債務の範囲は,賃貸人と賃借人(転貸人)との間の賃貸借契約に基づく債務の範囲に限られるものとする。
 (3) 上記(2)の場合において,転借人は,転貸借契約に定めた時期の前に転貸人に対して賃料を支払ったとしても,上記(2)の賃貸人に対する義務を免れないものとする。
 (4) 上記(2)及び(3)は,賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げないものとする。
 (5) 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合において,賃貸人及び賃借人が賃貸借契約を合意により解除したときは,賃貸人は,転借人に対し,当該解除の効力を主張することができないものとする。ただし,当該解除の時点において債務不履行を理由とする解除の要件を満たしていたときは,この限りでないものとする。

(注)上記(3)については,民法第613条第1項後段の文言を維持するという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,適法な転貸借がされた場合における賃貸人と転借人との関係に関する一般的な理解を明文化するものであり,本文(2)と併せて民法第613条第1項前段の規律の内容を明確にすることを意図するものである。
 本文(2)は,適法な転貸借がされた場合における転借人が賃貸人に対して直接負う義務の具体的な内容について定めるものであり,民法第613条第1項前段の規律の内容を一般的な理解に基づいて明確にするものである。
 本文(3)は,民法第613条第1項後段の「前払」という文言の意味を,判例(大判昭和7年10月8日民集11巻1901頁)に従って明確にすることを意図するものである。もっとも,本文(3)のように改めると転貸人と転借人との間における弁済期の定め方次第で適用を免れるおそれがある等の指摘があることから,同項後段の「前払」という文言を維持すべきであるという考え方を(注)で取り上げている。
 本文(4)は,民法第613条第2項の規律を維持するものである。
 本文(5)は,適法な転貸借がされた後に原賃貸人と転貸人との間の賃貸借契約が合意解除された場合には,その合意解除の時点において債務不履行解除の要件を満たしていたときを除き,原賃貸人はその合意解除の効力を転借人に主張することができない旨を定めるものであり,判例法理(最判昭和62年3月24日判時1258号61頁,最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁等)を明文化するものである。

赫メモ

 要綱仮案の規律の趣旨は、中間試案(2)〜(5)に関する中間試案概要のとおりである。中間試案(1)については、規律を設ける意義が乏しいこと等を考慮し、要綱仮案では当該規律を設けることが見送られた(部会資料83-2、45頁)。

現行法

(転貸の効果)
第613条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=賃貸人,B=賃借人)
[前払い]
【民法613条1項後段に定める前払いとは,転貸借に定める弁済期より前の弁済のことである】大審院昭和7年10月8日判決・民集11巻1901頁
 AがBに対して農地を賃貸し,BがCにこの土地を転貸していた。小作料の支払期限はいずれも毎年12月であった(小作料は玄米で支払うが,弁済がないときは玄米を金銭に評価した金額を支払うとされていた)ところ,Cは,昭和3年の小作料を昭和4年に入ってからBに対して支払った。AがCに対して,玄米評価額を請求した。
 民法613条1項後段の趣旨は,転貸人と転借人が通謀して転貸借の契約の趣旨によらずに転貸人に転借料を支払い,賃貸人の転借人に対する賃料請求権を消滅させることを防止するための規定であるから,前払いか否かは転貸借契約に定める弁済期を基準とすべきである。

[原賃貸借の解除の効力]
@ 【適法な転貸借について,賃貸人・賃借人間の合意によってこれを消滅させることができないのは,信義の原則から明らか】大審院昭和9年3月7日判決・民集13巻278頁
  AがBに貸与し,BがCに転貸していた土地について,AB間の合意により解除した。
  Cは賃貸借契約の内容に従って土地を使用する権利を有しAもこれを認容しなければならない関係にあり,CからAに対する権利主張も可能であるから,Aの単独の意思表示でこれを消滅させることはできず,AB間の合意によっても消滅させることができないのは,信義の原則から当然である。

A 【借地契約を合意解除しても,借地上の建物の賃借人に対しては対抗できない】最高裁昭和38年2月21日判決・民集17巻1号219頁
  AがBに土地を賃貸し,Bが建物を建築し,この建物をCに賃貸していた。AB間で賃貸借契約を合意解除する調停が成立し,AはCに建物からの退去を要求した。
  AC間に直接の契約上の関係はないが,土地賃貸人Aは借地上の建物が第三者に賃貸され,建物賃借人Cがその敷地を占有使用することを当然に予測し,認容しているから,Cは,建物の使用に必要な範囲内で土地の使用収益をする権利を有するとともに,この権利をAに主張できるのであるから,ABの合意をもって賃貸借契約を解除した場合には,Bにおいて借地権を放棄したことになるため,Cに対抗できない(民法398条,538条の法理及び信義則)。

B 【賃貸借契約が賃借人の債務不履行によって解除された場合には,転貸借契約も終了する】最高裁昭和36年12月21日判決・民集15巻12号3243頁
  AがBに土地を賃貸し,BがこれをCに転貸し,Cが借地上に建物を建てDに建物を賃貸していたところ,Bが地代を支払わないため,Aが賃貸借契約を解除した。
  賃貸借が終了した以降,転貸借は当然にその効力を失うことはないが,これをもって賃貸人に対抗し得ないこととなるものであり,賃貸人より転貸人に対し返還請求があれば転貸人はこれを拒否すべき理由なく,これに応じなければならないのであるから,その結果転貸人は,転貸人としての義務を履行することが不能となり,その結果として転貸借は終了に帰する。賃貸借契約の終了と同時に転貸借契約も,その履行の履行不能により当然終了するものと解するを相当とする。BのCに対する転貸借契約上の債務も,Bに対する契約解除と同時に消滅した,とする原審の判断は正当である。

C 【賃貸人が賃借人(転貸人)と賃貸借を合意解除しても,これが賃借人の賃料不払等の債務不履行があるため賃貸人において法定解除権の行使ができるときにされたものである等の事情のない限り,賃貸人は,転借人に対して右合意解除の効果を対抗することができない】最高裁昭和62年3月24日判決・判時1258号61頁
  AがBに賃貸し,BがCに無断転貸していた土地について,無断転貸が背信行為にあたらない特段の事情があるとされたが,AB間において賃貸借契約を合意解除した。
  賃貸人が賃借人との間でした賃貸借の合意解除との関係において,賃貸人の承諾を得た転貸借と賃貸人の承諾はないものの賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある転貸借とを別異に取り扱うべき理由はないから,土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく転貸しても,転貸について賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため賃貸借を解除することができない場合において,賃貸人が賃借人(転貸人)と賃貸借を合意解除しても,これが賃借人の賃料不払等の債務不履行があるため賃貸人において法定解除権の行使ができるときにされたものである等の事情のない限り,賃貸人は,転借人に対して右合意解除の効果を対抗することができない。

D 【賃貸借契約を解除するに際して,転借人等に地代の代払い催告の機会を付与する必要はない】最高裁平成6年7月18日判決・判時1540号38頁
  AがBに対して土地を賃貸し,BはCに一部を転借し,Cが建物を建築していた。Bが地代を支払わないため,AがBに支払いを催告して,Cに対して明渡しを求めた。
  土地の賃貸借契約において,適法な転貸借関係が存在する場合に,賃貸人が賃料の不払いを理由に契約を解除するには,特段の事情のない限り,転借人に通知などをして賃料の代払の機会を与えなければならないものではない。