債権法改正 要綱仮案 情報整理

第33 賃貸借

12 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了

 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了について、次のような規律を設けるものとする。
 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

中間試案

12 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了
  賃借物の全部が滅失した場合その他の賃借人が賃借物の全部の使用及び収益をすることができなくなった場合には,賃貸借は,終了するものとする。

(概要)

 賃借物の全部滅失その他の賃借物の全部の使用収益をすることができなくなったことを賃貸借の終了事由とするものであり,判例法理(最判昭和32年12月3日民集11巻13号2018頁,最判昭和36年12月21日民集15巻12号3243頁等)を明文化するものである。

赫メモ

 中間試案と同じである(中間試案概要、参照)。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=賃貸人,B=賃借人)
@ 【賃貸借の目的物が滅失した場合,賃貸借の趣旨が達成されなくなるため,契約は当然終了する】最高裁昭和42年6月22日判決・民集21巻6号1468頁
  AがBに賃借していた建物が隣家の失火により延焼した。
  賃貸借の目的物たる家屋が滅失した場合,賃貸借の趣旨は達成されなくなるから,これによって賃貸借契約は当然に終了する。

A 【賃貸人が目的物を引き渡すことができなくなった以上,借地権は消滅する】大審院昭和10年4月13日判決・民集14巻556号
  AがBに建物所有目的で土地を賃貸し,Bが建物を建築していたところ,建物が関東大震災で滅失し,その後,Aが土地を第三者Cに譲渡し,Cが土地上の新たな建物を建築した。
  AはBに対して賃貸人として土地を引き渡すことが不能となり,借地権も消滅し,履行不能となる。

B 【目的物が効用を喪失した場合には目的が達成できなくなるから,契約は当然に終了する】最高裁昭和32年12月3日判決・民集11巻13号2013頁
  AがBに貸与した建物(土蔵)が戦災により外廊が残るだけとなったが,Bは周囲に仮居宅を建てて使用していた。
  土蔵は建築後年数を経た上戦災にあつた関係から朽廃甚だしく,いつなんどき崩壊するか判らない位の危険状態にあり,建物としてはもはやその効用を失った。賃貸借の目的物たる建物が朽廃しその効用を失った場合は,目的物滅失の場合と同様に賃貸借の趣旨は達成されなくなるから,これによって賃貸借契約は当然に終了する。

C 【他人物の賃貸借契約は,賃借人が真の所有者と直接賃貸借契約を締結した時点で履行不能となり終了する】最高裁昭和49年12月20日判決・判時768号101頁
  C所有の建物をAがBに対して賃貸していたが,BはCとの間でこの建物に関する賃貸借契約を締結した。
  所有権ないし賃貸権限を有しない者Aから不動産を賃借した者Bが同一物について真の権利者Aと賃貸借契約を締結するに至ったときは,はじめの賃貸借は賃貸人Aの使用収益させる義務の履行不能により終了に帰する。

D 【転貸借契約は,賃貸借契約が転貸人の不履行により終了し,賃貸人から転借人に対して目的物の返還請求がなされたときに,履行不能により終了する】最高裁平成9年2月25日判決・民集51巻2号398頁
  CがAに対して建物を賃貸し,AがBにこれを転貸していたところ,Aが賃料を支払わなかったため,CがAとの賃貸借契約を解除して,昭和62年にABに対して明渡訴訟を提訴し,平成3年にC勝訴の判決が確定した。AはBCに対して,昭和63年から平成2年までの転借料を請求した。
  賃貸人の承諾のある転貸借においては,転借人が賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり,転貸人が,自らの債務不履行により賃貸借契約を解除され,転借人が転借権を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは,転借人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものである。賃貸借契約がAの債務不履行を理由とする解除により終了した場合において,CがBに対して直接目的物の返還を請求したときは,BはCに対し目的物の返還義務を負うとともに,遅くとも返還請求を受けた時点から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益について,不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れない。CがBに直接目的物の返還を請求するに至った以上,AがCとの間で再び賃貸借契約を締結するなどして,BがCに転借権を対抗し得る状態を回復することは,もはや期待し得ないから,AのBに対する債務は,社会通念及び取引観念に照らして履行不能となる。賃貸借契約がAの債務不履行を理由とする解除により終了した場合,Cの承諾のある転貸借は,原則として,CがBに対して目的物の返還を請求した時に,AのBに対する債務の履行不能により終了する。