債権法改正 要綱仮案 情報整理

第33 賃貸借

13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条・第598条関係)

 民法第616条(同法第598条の準用)の規律を次のように改めるものとする。
(1) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、賃貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、賃借物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
(2) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
(3) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この(3)において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

中間試案

13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条,第598条関係)
  民法第616条(同法第598条の準用)の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 賃借人は,賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において,賃貸借が終了したときは,その附属させた物を収去する権利を有し,義務を負うものとする。ただし,賃借物から分離することができない物又は賃借物から分離するのに過分の費用を要する物については,この限りでないものとする。
 (2) 賃借人は,賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において,賃貸借が終了したときは,その損傷を原状に復する義務を負うものとする。この場合において,その損傷が契約の趣旨に照らして賃借人の責めに帰することができない事由によって生じたものであるときは,賃借人は,その損傷を原状に復する義務を負わないものとする。
 (3) 賃借人は,賃借物の通常の使用及び収益をしたことにより生じた賃借物の劣化又は価値の減少については,これを原状に復する義務を負わないものとする。

(概要)

 本文(1)は,民法第616条(同法第598条の準用)の規定のうち収去義務及び収去権に関する規律の内容を明確にするものであり,賃借人の収去義務及び収去権に関する一般的な理解を明文化するものである。
 本文(2)(3)は,民法第616条(同法第598条の準用)の規定のうち原状回復義務に関する規律の内容を明確にするものであり,賃借人の原状回復義務に関する一般的な理解を明文化するものである。このうち本文(3)は,いわゆる通常損耗(経年変化を含む。)の回復は原則として原状回復義務の内容に含まれないとする判例法理(最判平成17年12月16日集民218号1239頁)を明文化するものである。

赫メモ

 要綱仮案(1)(2)の規律の趣旨は、中間試案(1)に関する中間試案概要と同じである。
 要綱仮案(3)の規律の趣旨は、中間試案(2)(3)に関する中間試案概要と同じである。

現行法

(使用貸借の規定の準用)
第616条 第五百九十四条第一項、第五百九十七条第一項及び第五百九十八条の規定は、賃貸借について準用する。

(借主による収去)
第598条 借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=賃貸人,B=賃借人)
【通常損耗を賃借人の負担とする特約について,通常損耗の範囲が明記され又は説明されるなど明確な合意がなければならない】最高裁平成17年12月16日判決・判時1921号61頁
 AB間の建物賃貸借契約が終了し,賃借人Bが建物を明け渡したが,敷金のうち30万円が補修費用として差し引かれた。
 賃貸借契約が終了した場合には,原状回復義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人にこの義務を課すには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。