債権法改正 要綱仮案 情報整理

第33 賃貸借

14 損害賠償の請求権に関する期間制限(民法第621条・第600条関係)

 民法第621条(同法第600条の準用)に次の規律を付け加えるものとする。
 民法第621条が準用する同法第600条に規定する損害賠償の請求権については、賃貸人が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

中間試案

14 損害賠償及び費用償還の請求権に関する期間制限(民法第621条,第600条関係)
  民法第621条(同法第600条の準用)の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 契約の趣旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償は,賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないものとする。
 (2) 上記(1)の損害賠償請求権については,賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から1年を経過するまでの間は,消滅時効は,完成しないものとする。
 (3) 賃借人が支出した費用の償還請求権に関する期間制限の部分を削除するものとする。

(概要)

 本文(1)は,民法第621条(同法第600条の準用)の規定のうち賃借人の用法違反による賃貸人の損害賠償請求権に関する期間制限(除斥期間と解されている。)の部分の内容を維持しつつ,同法第600条の「契約の本旨に反する」という表現を「契約の趣旨に反する」という表現に改めるものである。「本旨」という言葉は法令によっては「本質」といった意味で用いられることがあり,そのままでは賃借人による用法違反の態様等を限定する趣旨に誤読されるおそれがあるとの指摘があるため(前記第10,1(1)参照),そのような誤読を避けることを意図するものである。
 本文(2)は,賃借人の用法違反による賃貸人の損害賠償請求権に関する消滅時効(民法第167条第1項)について新たな停止事由を定めるものである。この損害賠償請求権は,賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から起算される1年の除斥期間(本文(1))のほかに,賃借人が用法違反をした時から起算される10年の消滅時効(民法第167条第1項)にも服するとされており,長期にわたる賃貸借においては,賃貸人が賃借人の用法違反の事実を知らない間に消滅時効が進行し,賃貸人が賃貸物の返還を受けた時には既に消滅時効が完成しているといった事態が生じ得る。本文(2)は,このような事態に対処する趣旨のものである。
 本文(3)は,民法第621条(同法第600条の準用)の規定のうち賃借人の費用償還請求権に関する期間制限(除斥期間と解されている。)の部分を削除するものである。賃借人の費用償還請求権(同法第608条)と同様の法的性格を有する他の費用償還請求権(例えば同法第196条,第299条等)についてはこのような期間制限がなく,賃借人の費用償還請求権についてのみこのような期間制限を設ける必要性,合理性は乏しいと考えられることを理由とする。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案(2)に関する中間試案概要のとおりである。中間試案(3)の規律については、賃貸人と賃借人の間の利益の均衡を失しているとの問題があることを考慮して、要綱仮案では、当該規律を設けることが見送られた(部会資料81-3、15頁)。また、中間試案(1)において、民法621条(同法600条の準用)の規定のうち、同法600条の「契約の本旨に反する」という表現を改めるものとされていたが、要綱仮案では見送られた。

現行法

(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
第621条 第六百条の規定は、賃貸借について準用する。

(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
第600条 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり