債権法改正 要綱仮案 情報整理

第35 請負

1 仕事を完成することができなくなった場合等の報酬請求権

 仕事を完成することができなくなった場合等の報酬請求権について、次のような規律を設けるものとする。
 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合又は仕事の完成前に請負が解除された場合において、既にした仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の限度において、報酬を請求することができる。

中間試案

1 仕事が完成しなかった場合の報酬請求権・費用償還請求権
 (1) 請負人が仕事を完成することができなくなった場合であっても,次のいずれかに該当するときは,請負人は,既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用を請求することができるものとする。
  ア 既にした仕事の成果が可分であり,かつ,その給付を受けることについて注文者が利益を有するとき
  イ 請負人が仕事を完成することができなくなったことが,請負人が仕事を完成するために必要な行為を注文者がしなかったことによるものであるとき
 (2) 解除権の行使は,上記(1)の報酬又は費用の請求を妨げないものとする。
 (3) 請負人が仕事を完成することができなくなった場合であっても,それが契約の趣旨に照らして注文者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,請負人は,反対給付の請求をすることができるものとする。この場合において,請負人は,自己の債務を免れたことにより利益を得たときは,それを注文者に償還しなければならないものとする。

(注)上記(1)イについては,規定を設けないという考え方がある。

(概要)

 仕事の完成が不可能になったとしても請負人が報酬を請求することができる場合及びその範囲についての規律を設けるものである。請負報酬を請求するには仕事を完成させることが必要であり,仕事を完成させることができなくなった場合には報酬を請求することができないのが原則であるが,仕事の完成が不能になった原因によっては,報酬の全部又は一部を請求することができることとすべき場合があると考えられ,不能になった原因に応じて,既履行部分の報酬を請求することができる場合と,約定の報酬全額を請求することができる場合とを定めている。
 本文(1)は,請負報酬の全額を請求することはできないが,既履行部分に対応する報酬を請求することができる場合について規定するものである。まず,アは,既履行部分が可分でその給付を受けることについて注文者に利益がある場合であり,判例法理(最判昭和56年2月17日判時996号61頁など)を踏まえたものである。次に,イは,注文者が必要な行為(材料を提供することや,目的物を適切に保存することなど)をしなかったために請負人が仕事を完成させることができなくなった場合に,その行為をしなかったことについて注文者に帰責事由があるかどうかを問わず,既履行部分についての報酬請求権を認める。これは,仕事の完成が不能になった原因が注文者の支配領域において生じた場合を表現しようとするものであり,注文者の支配領域において生じた原因による不能のリスクは,不能について注文者に帰責事由がないとしても請負人が現実に仕事をした部分については報酬支払義務を負うという限度で,注文者が負担すべきであるという考え方に基づくものである。契約の趣旨に照らして注文者の責めに帰すべき事由があるときは,請負人は,本文(3)に基づいて反対給付を請求することができることになるが,必要な行為を注文者がしなかったことについて帰責事由がない場合であっても既履行分の報酬を請求することができる点で,本文(1)イに独自の意味がある。これに対し,本文(1)イについては,請負報酬は本来仕事を完成して初めて請求することができるものであり,注文者に責めに帰すべき事由がない以上,報酬を請求することができなくてもやむを得ないとして,本文(1)イのような規定を設けないという考え方があり,これを(注)で取り上げている。
 本文(2)は,請負人の債務不履行を理由として注文者が請負の解除をした場合であっても,本文(1)の報酬又は費用の請求は妨げられないとするものである。本文(1)の場合には注文者は請負を解除することができるが,これによって請負人の報酬請求権等が失われるとすると,本文(1)で報酬請求権等を認めた趣旨が失われるからである。
 本文(3)は,請負に関して民法第536条第2項を維持するものである。従来から,注文者の帰責事由により請負人が仕事を完成することができなくなった場合には,請負人は,民法第536条第2項に基づいて,報酬を請求することができるとされてきた。本文(3)はこれを確認したものであり,前記第12,2と同趣旨を定めるものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案(1)ア及び(2)に関する中間試案概要のとおりである。なお、中間試案(1)の「請負人が仕事を完成することができなくなった場合」の表現については、具体的にどのような場合がこれに含まれるのかをより明確にするため、要綱仮案では、「注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合又は仕事の完成前に請負が解除された場合」に改められた(部会資料81-3、17頁)。また、「その中に含まれていない費用」という民法642条1項と同様の表現については、現行法が制定された当時、破産手続開始による解除の場合の損害賠償請求が認められていなかったため、請負人保護の観点から、性質上は損害となるべきもののうち既に支出した費用の償還請求を認める趣旨のものと考えられ、当該費用は他の規定(民法641条、415条など)により損害賠償として請求することができることから、要綱仮案の規律においては報酬請求のみを認めるものとされた(部会資料81-3、17頁、部会資料83-2、46頁)。
 中間試案(1)イの規律については、パブリック・コメントにおける指摘を踏まえ(注)の考え方が採用され、要綱仮案では、当該規律を設けることが見送られた(部会資料72A、3頁)。
 また、中間試案(3)では、民法536条2項の規律とは別に報酬請求権の発生根拠となる規定を設けることとしていたが、請負人に報酬全額の請求を認めるべきではない事案があり得ることや、注文者に請負人の利得を主張立証させるべきではないことなどの理由から、この規律を設けることに反対する意見があることや、この規律によって請求することができる報酬の範囲が必ずしも明確ではないなどの問題もあることから、要綱仮案では、この規定は設けず、引き続き民法536条2項に委ねることとされた(部会資料81-3、18頁)。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=請負人,B=注文者)
@ 【工事の内容が可分で,既履行部分に利益がある場合,既履行部分については解除できない】大審院昭和7年4月30日判決・民集11巻8号780頁
  AがBから請け負った学校校舎の建築請負工事について,AB間において8割形完成した建物について,通りに面した部分はAに,残余の部分はBの所有とすることが合意された。ところが,Bは通りに面した部分についてAに移転登記をせず,かえって,工事契約全部を解除した。
  およそ,その給付が可分にして当事者がその給付につき利益を有するときは,すでに完成した部分については解除をすることはできず,ただ,未完成部分について一部解除をすることができるに留まる。

A 【同上】最高裁昭和56年2月17日判決・判時996号61頁
  請負人Aが工事の途中で現場に来なくなり,経営困難により工事を完成することができなくなったことが明らかとなったため,注文者Bが契約を解除した。その時点において,Aは工事の49%,690万円相当部分の工事を完成しており,Bは既施工部分を引き取って残部を完成させていた。Bの債権者Cが報酬請求権を差し押さえて,Aに対して支払いを求めた。
  建物その他土地の工作物の工事請負契約につき,工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を解除する場合において,工事内容か可分であり,しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは,特段の事情のない限り,既施工部分については契約を解除することができず,ただ未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないものと解するのが相当である。

B 【工事が未完成の場合において,出来高部分の報酬を認めた事例】最高裁昭和60年5月17日判決・判時1168号58頁
  請負契約が途中で終了した場合に,請負人から注文者に対して出来高相当分の報酬の支払いを求め,注文者から請負人に対して別の業者に残工事を発注したことによる損害賠償の支払いを求めた事例。
  請負人については,出来高に相当する報酬総額の85%相当額の報酬を認容した。
  注文者については,残工事に要した工事代金から報酬総額の15%相当額を控除した損害賠償を認容した。

C 【請負人が破産し請負契約が解除された場合,出来高部分の報酬を認めた事例】最高裁昭和62年11月26日判決・民集41巻8号1585頁
  注文者が建物建築工事の報酬1600万円を前払いしていたところ,工事の途中で請負人が破産したため,注文者が管財人に催告したところ,管財人の回答がなく解除の効力が生じた(破産法53条2項)。
  報酬の内金から工事の出来高分を控除した残高を財団債権として返還を求めることができる。

C-2 【工事が未完成の場合において,出来高部分の報酬を認めた事例】東京高裁昭和46年2月25日判決・判時624号42頁
  元請会社Bが下請会社Aに対して工事を発注したが,Aが破産した工事が途中で中断した。この場合に,Bが請負報酬の一部について支払義務を負うか否かが争われた。
  有償である請負契約を締結し仕事の完成を託した以上,たとえ工事の中途で請負契約を合意解除してもすでになされた仕事を基礎としその上に継続してさらに自ら施工し,もしくは他人をして施工せしめ,当初の仕事を完成したような場合は,すでに施工した出来高に対しいささかも報酬を支払わないでもよいとすることは,当事者の意思にかなうゆえんではなく,むしろ反対の意思表示をしないかぎり,註文者(元請負人)は請負人(下請負人)の仕事の成果を取得利用することによって利益を得るものというべきであるから,請負人(下請負人)の施工した出来高に応じて,相当の報酬を支払うべきものが少なくとも請負契約を合意解除した当事者の趣旨に適合するものというべきである。

C-3 【脚本が未完成の場合において,出来高部分の報酬を認めた事例】東京地裁平成12年11月14日判決・判タ1069号190頁
  脚本家が映画プロデューサーに対して脚本料350万円を請求した。
  修正等を施した脚本を映画製作者に引き渡すまでは完成したとはいえず,本件では脚本は未完成である。この場合,請負代金は,出来上がっている仕事の完成度合い(出来高)に応じて算定されるとして,7割の出来高を認めた。