債権法改正 要綱仮案 情報整理

第35 請負

3 注文者についての破産手続の開始による解除(民法第642条関係)

 民法第642条第1項前段の規律を、次のように改めるものとする。
(1) 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、破産管財人は、契約の解除をすることができる。
(2) (1)に規定する場合には、請負人は、仕事を完成しない間に限り、契約の解除をすることができる。

中間試案

3 注文者についての破産手続の開始による解除(民法第642条関係)
  民法第642条第1項前段の規律のうち請負人の解除権に関する部分を改め,注文者が破産手続開始の決定を受けたときは,請負人が仕事を完成しない間は,請負人は契約の解除をすることができるものとする。

(概要)

 請負人による仕事の完成は報酬の支払に対する先履行とされており(民法第633条),注文者による支払が危殆化した後も請負人は積極的に役務を提供して仕事を完成させなければならないとすると請負人は多額の損害を受けるおそれがあることから,民法第642条第1項は破産管財人に加えて請負人にも解除権を与えたとされている。このような趣旨からすると,仕事が既に完成し,請負人がその後積極的に役務を提供して仕事を完成させることが不要になった場合には,請負人に同項による解除を認める必要はないと考えられる。そこで,本文は,同項の規律を改め,注文者が破産手続開始の決定を受けた場合に請負人が契約の解除をすることができるのを請負人が仕事を完成しない間に限定しようとするものである。破産管財人の解除権については現状を変更しない。
 なお,本文記載の案の検討に当たっては倒産法との関係にも留意する必要がある。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。

現行法

(注文者についての破産手続の開始による解除)
第642条 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。この場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。
2 前項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=請負人,B=注文者)
@ 【民法642条により解除された場合,仕事の結果は財団に帰属する】最高裁昭和53年6月23日判決・金法875号29頁
  BがAに建物の建築を発注していたが,工事の途中でBが破産したため,Bの管財人B´が契約を解除し,A名義となっていた建物の保存登記の抹消を求めた。
  請負契約が民法642条1項の規定により解除された場合,請負人は,すでにした仕事の報酬及びこれに包含されない費用につき破産財団の配当に加入することができるが,その反面として,すでにされた仕事の結果は破産財団に帰属する。

@-2 【工事完成後における注文者が破産した場合に,履行を選択したと判断された事例】東京地裁平成12年2月24日判決・金判1092号22頁
  国からBが請け負い,Aに下請に出した高架用橋脚工事について,Aによる工事完成後に,Bが破産した。AからBの管財人B´に対する下請代金(財団債権)請求事件である。これに対して,B´は,請負契約を解除した旨主張した。
  請負契約における注文者の破産の場合については,民法642条に契約の解除について規定が置かれており,契約の解除については,特別法として同条が優先的に適用される。
  B´は,Aに竣工検査への立会を要求し,目的物を国に引き渡し,国から工事代金を受領していることから,破産法53条の履行を選択したものと解釈することができる。B´はいったん履行を選択した以上,契約を解除することはできない。