債権法改正 要綱仮案 情報整理

第36 委任

1 受任者の自己執行義務

 受任者の自己執行義務について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
(2) 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。

中間試案

1 受任者の自己執行義務
 (1) 受任者は,委任者の許諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,復受任者を選任することができないものとする。
 (2) 代理権の授与を伴う復委任において,復受任者は,委任者に対し,その権限の範囲内において,受任者と同一の権利を有し,義務を負うものとする。
(注)上記(1)については,「許諾を得たとき,又は復受任者を選任することが契約の趣旨に照らして相当であると認められるとき」に復受任者を選任することができるものとするという考え方がある。

(概要)

 復受任の可否や委任者と復受任者の関係については固有の規定がなく,代理の規定が類推適用されてきた。本文は,委任者と受任者及び復受任者との関係(内部関係)について,委任の箇所に固有の規定を設けることとするものである。
 本文(1)は,民法第104条を委任に類推適用すべきであるとする学説に従い,同条と同内容の規定を委任において設けるものである。委任関係は当事者間の信頼関係を基礎とするから,同条を類推適用することにより,委任事務は原則として自ら処理しなければならず,同条に規定する場合のほかは第三者に委任事務を処理させることはできないとされてきた。本文(1)は,復受任者を選任して委任事務を処理させることが受任者の債務不履行に該当するかどうかという委任の内部関係に関して,同条と同内容の規定を委任固有の規定として設けるものである。本文(1)のような規定が設けられると,民法第104条は,選任した復受任者の行為が本人に帰属するかどうかという委任の外部関係に関する規定として存続することになる。
 本文(1)については,復受任者を選任することができるのが,委任者の許諾を得た場合のほかは「やむを得ない事由があるとき」に限定されているのは狭過ぎるとして,復受任者の選任が契約の趣旨に照らして相当であると認められる場合にも復受任者の選任を認めるべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。なお,(注)で取り上げた考え方を採る場合には,民法第104条についても同様の考え方に従って改正するのが整合的であると考えられる。
 本文(2)は,民法第107条第2項の規定のうち任意代理人が選任した復代理人と本人との関係に関する部分を委任の箇所に移動させるものである。同項によれば,復代理人は本人及び第三者に対して代理人と同一の権利を有し,義務を負うものとしているが,このうち,任意代理人が選任した復代理人と本人との関係に関する部分は委任の内部関係に関するものであるから,委任の箇所に設けるのが適当であると考えられるからである。もっとも,復代理人が本人に対して代理人と同一の権利・義務を有するのは,受任者が処理することとされた委任事務のうち,復受任者の権限の範囲とされた部分についてのみであることには異論がない。本文(2)は,このことも併せて明文化することとしている。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【民法107条2項は,本人・復代理人間にも直接の権利義務の関係を生じさせる趣旨の規定である】最高裁昭和51年4月9日判決・民集30巻3号208頁
  BはAに対して,保険会社に対する保険金の請求・受領について委任し(復代理選任についても許諾),Aは復代理人としてA´を選任した。A´は保険会社から保険金250万円を受領し,A´はAに対してこの保険金を引き渡した。BからA´に対する保険金引渡請求事件である。
  本人代理人間で委任契約が締結され,代理人復代理人間で復委任契約が締結されたことにより,民法107条2項の規定に基づいて本人復代理人間に直接の権利義務が生じた場合であっても,右の規定は,復代理人の代理行為も代理人の代理行為と同一の効果を生じるところから,契約関係のない本人復代理人間にも直接の権利義務の関係を生じさせることが便宜であるとの趣旨に出たものであるにすぎず,この規定のゆえに,本人又は復代理人がそれぞれ代理人と締結した委任契約に基づいて有している権利義務に消長をきたすべき理由はないから,復代理人が委任事務を処理するに当たり金銭等を受領したときは,復代理人は,特別の事情がないかぎり,本人に対して受領物を引渡す義務を負うほか,代理人に対してもこれを引渡す義務を負い,もし復代理人において代理人にこれを引渡したときは,代理人に対する受領物引渡義務は消滅し,それとともに,本人に対する受領物引渡義務もまた消滅するものと解するのが相当である。