債権法改正 要綱仮案 情報整理

第37 雇用

2 期間の定めのある雇用の解除(民法第626条関係)

 民法第626条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 雇用の期間が5年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約を解除することができる。
(2) (1)により契約の解除をしようとするときは、使用者は3箇月前に、労働者は2週間前にその予告をしなければならない。

中間試案

2 期間の定めのある雇用の解除(民法第626条関係)
  民法第626条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 期間の定めのある雇用において,5年を超える期間を定めたときは,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約を解除することができるものとする。
 (2) 上記(1)により契約の解除をしようとするときは,2週間前にその予告をしなければならないものとする。

(概要)

 本文(1)は,民法第626条第1項を以下のとおり改めるものである。まず,同項本文の「雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきとき」を削除している。当事者の一方の終身の間継続する雇用契約は人身を不当に拘束する契約であって,その有効性を認めるかのような規律は維持すべきでないと考えられるからである。また,同項ただし書についても削除しているが,これは,そもそも実際に適用される場面が想定し難い上に,職業別の取扱いを規定している点で取りわけ今日における合理性に疑問があるからである。
 本文(2)は,民法第626条第2項の規律を改め,解除の予告をすべき時期を2週間前とするものである。現在の3か月前では長すぎて不当であるという考えに基づき,解除の予告期間について後記3(同法第627条第1項参照)と整合的な期間とすることを意図するものである。

赫メモ

 要綱仮案(1)の規律の趣旨は、中間試案(1)に関する中間試案概要のとおりである。もっとも、中間試案(1)においては、民法626条1項の「雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきとき」を単に削除しているが、極めて高齢な者の存命中という趣旨で本人やその家族が家事使用人を雇う場合のように、当事者の一方や第三者の終身の間の雇用契約が必ずしも公序良俗に反し当初より無効であるとまではいえない場合もあり得るように思われ、上記の文言を単に削除するのみでは、当事者がこのような契約を締結した場合に、長期にわたる契約の拘束から労働者を保護するという同条の趣旨を達成することができない場合が生ずるおそれがあることから、要綱仮案では、当該文言に代えて、雇用期間の終期が不確定であるときを加えることとしたものである(部会資料73A、5頁)。なお、期間の定めのある労働契約を締結する場合の期間の上限、これを超える有期契約を締結した場合の効果については労働基準法14条1項、13条に規定があり、また、期間経過後も労働契約が継続されたときは黙示の更新(民法629条1項)により期間の定めのない労働契約となると理解されているから(札幌高判昭和56年7月16日、東京地判平成2年5月18日)、民法626条は「一定の事業の完了に必要な期間を定める」雇用契約(労働基準法14条1項)及び同法の適用が除外される家事使用人等(同法116条2項)に適用されることになる(部会資料73A、4頁)。
 要綱仮案(2)は、労働者からの解除の予告期間を短縮し、辞職の自由を保護するため、解除の予告期間を改めるものである。現在の3か月前では長すぎて不当であるという考えに基づき,解除の予告期間について要綱仮案3(民法627条1項参照)と整合的な期間とするものである。なお、中間試案(2)においては、使用者からの解除の予告期間も短縮することとしていたが、要綱仮案では現状を維持することとなった(部会資料82-2、9頁、部会資料81B、21頁)。

現行法

(期間の定めのある雇用の解除)
第626条 雇用の期間が五年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習を目的とする雇用については、十年とする。
2 前項の規定により契約の解除をしようとするときは、三箇月前にその予告をしなければならない。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 …

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【労基法14条の期間を超える部分の期間の定めが無効となる】東京地裁平成2年5月18日判決・判タ737号148頁
  交響楽団Aとの間で,2年,2年,1年の雇用契約を締結したチェリストBが契約期間経過後に,地位確認の裁判を提訴した。
  当時の労基法14条は,1年を超える期間を定める契約を禁止しているが,これは,人身保護の立場から1年を経過した後は労働者に解約の自由を認めて使用者の拘束から解放する趣旨に基づくものである。この趣旨からすれば,当事者が合意のうえで1年を超えて契約期間を定めた場合にも1年を超える部分をすべて無効とする必要はなく,その部分については,使用者には労働者に対する拘束を許さないが,労働者にはその契約期間は雇用の保障を主張することができ,期間満了により契約終了の効力も受け得るものとみるのが当事者の意思に則し妥当である。

A 【民法629条1項が適用される場合,以降は期間の定めのない契約となる】東京地裁平成11年11月29日判決・労判780号67頁(角川文化振興財団事件)
  A社との間で,3年又は2カ月の期間を定めて雇用されたが,4年ないし10年間勤務を継続した労働者の地位が争われた。
  1年(現在は3年)を超えない期間を定めた労働契約の期間満了後に労働者が引き続き労務に従事し,使用者がこれを知りながら異議を述べないときは,民法629条1項により黙示の更新がされ,以後期間の定めのない契約として継続される。また,1年(現在は3年)を越える期間を定めた労働契約は労働基準法14条,13条により期間が1年(現在は3年)に短縮されるが,その期間満了後に労働者が引き続き労務に従事し,使用者がこれを知りながら異議を述べないときは,民法629条1項により黙示の更新がされ,以後期間の定めのない契約として継続されるものと解される。

B 【民法629条1項が適用される場合,以降も期間の定めのある契約となる】東京地裁平成15年12月19日判決・労判873号73頁(タイカン事件)
  平成12年9月にBを契約社員として雇用(契約期間1年)した会社Aが,平成14年3月にBを整理解雇した。
  更新後の契約期間は,民法629条の文言どおり,従前の契約期間と同一条件であり,1年間と推定するのが相当であり,契約期間は平成14年9月までである。また,A社はBの労働者たる地位を争っている以上,黙示的に契約が更新されることはなく,Bは労働者としての地位を有してない。