第39 組合
組合代理について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 各組合員が他の組合員を代理して組合の業務を執行するには、組合員の過半数の同意を得なければならない。ただし、組合の常務は、各組合員が単独で他の組合員を代理して行うことができる。
(2) 業務執行者があるときは、(1)の規定にかかわらず、業務執行者のみが組合員を代理する権限を有する。
(3) 業務執行者が数人ある場合において、各業務執行者が組合員を代理して組合の業務を執行するには、業務執行者の過半数の同意を得なければならない。ただし、組合の常務は、各業務執行者が単独で組合員を代理して行うことができる。
5 組合代理
(1) 各組合員が他の組合員を代理して組合の業務を執行するには,組合員の過半数をもってした決定による代理権の授与を要するものとする。ただし,組合の常務に関しては,各組合員は,当然に他の組合員を代理してこれを行う権限を有するものとする。
(2) 業務執行者を定めた場合には,組合員を代理する権限は,業務執行者のみが有するものとする。
(3) 業務執行者が二人以上ある場合に,各業務執行者が組合員を代理して組合の業務を執行するには,業務執行者の過半数をもってした決定による代理権の授与を要するものとする。ただし,組合の常務に関しては,各業務執行者は,当然に組合員を代理してこれを行う権限を有するものとする。
組合は法人格を持たないので,法律行為の主体となることができないため,組合が第三者と法律行為を行うには,代理の形式を用いざるを得ないところ,民法には組合代理についての規定は特に設けられておらず,判例も,業務執行権と代理権とを厳密に区別することなく,民法第670条を組合代理にも適用していると見られている。本文(1)から(3)までは,業務執行権と代理権とを区別する観点から,業務執行権に関する前記4の規律とは別に,組合代理に関する規律を新たに設けるものであるが,その内容は,同条を適用することによって組合員の代理権を説明してきた判例法理を維持するものとなっている。組合員の過半数によって決定された業務(前記4(1))を執行するための代理権の授与にも組合員の過半数による決定(本文(1))を要することになるが,実際上は,両者を兼ねた一度の決議でこれを処理することが通常となると予想される。
規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。
(業務の執行の方法)
第670条 組合の業務の執行は、組合員の過半数で決する。
2 前項の業務の執行は、組合契約でこれを委任した者(次項において「業務執行者」という。)が数人あるときは、その過半数で決する。
3 組合の常務は、前二項の規定にかかわらず、各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただし、その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは、この限りでない。
(AB=組合員,PQ=第三者)
@ 【組合員・第三者間に成立した法律行為の効果を組合に帰属させるためには,民法670条の規定によらざるをえない】大審院明治40年6月13日判決・民録13輯648頁
ABら3名が学校経営に関する組合を設立し,Bが会計事務を担当していたところ,BがPから金銭を借り入れた事案。
民法670条は主として組合員相互の関係を定めたことは当然のことではあるが,組合員は相互代理の関係にないので,たとえ組合員の一人が第三者に対してなした意思表示は,その行為の性質上組合業務の執行に属する場合であっても,第三者と他の組合員との間に当然に法律関係が生じるわけではない。したがって,組合員の一人と第三者との間に成立した法律行為について組合員に対抗する効力を生じさせようと欲すれば,組合間に特別の意思表示がなければ,前掲法条の規定によらざるをえない。原審は,670条の規定は組合員相互間の関係を定めたものにすぎないとし,消費貸借契約は組合業務執行に他ならない旨事実認定したが,理由不備。
A 【業務執行社員が置かれていない場合,組合員の過半数で組合を代表する】最高裁昭和35年12月9日判決・民集14巻13号2994頁
Aら7名は,株式会社の発起人組合を結成したが,石炭販売事業を営むこととして,Aら4名が,Aの名前においてPから石炭を購入した。PからAら7名に対する売買代金請求事件。
本件石炭売買取引の実際にあたったのはAら4名にすぎないが,売買の法律上の効果は組合員たるAら7名全員について生じる。なぜなら,組合契約などにより業務執行組合員が定められている場合は格別,そうでないかぎり,対外的には組合員の過半数において組合を代理する権限を有するものと解するのが相当であるからである。
B 【業務執行者は対外的な代理権限も付与されている】最高裁昭和43年6月27日判決・判時525号52頁
Aら露天業者40名が組合を結成し,規約に基づきBを会長に選任した。Bは,Pとの間で組合Aの所有地をPに売却する契約を締結した。
組合は,各組合員が出資し,共同の事業を営むことを約して成立した民法上の組合であり,土地の使用権およびその地上の共同店舗は,組合財産として組合員に合有的に帰属する。Bは組合Aの会長として土地に関して契約を締結したが,Bは単にこの組合の内部的な業務執行権を委任されていたにとどまらず,対外的にも各組合員の代理人として総組合員を代理する権限を与えられていたものとみるのが相当である。
C 【業務執行者の権限を内部的に制約しても善意無過失の第三者には対抗できない】最高裁昭和38年5月31日判決・民集17巻4号600頁
Aは定置漁業組合の組合長であったが,組合名で,Pから漁業資材を購入した。組合規約では,事業年度の事業計画の設定変更及び借入金の最高限度額については総会の決議が必要とされていたが,Aは総会の決議を経ずに,Pとの間で契約を締結した。
組合において特に業務執行者を定め,これに業務執行の権限を授与したときは,特段の事情がないかぎり,その執行者は組合の内部において共同事業の経営に必要な事務を処理することができることはもちろんのこと,組合の業務に関し組合の事業の範囲を超越しないかぎり,第三者に対して組合員全員を代表する権限を有し,組合規約等で内部的にこの権限を制限しても,その制限は善意無過失の第三者に対抗できないものと解するのが相当である。