債権法改正 要綱仮案 情報整理

第4 代理

1 代理行為の瑕疵−原則(民法第101条第1項関係)

 民法第101条第1項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
(2) 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が、意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

中間試案

2 代理行為の瑕疵(民法第101条関係)
  民法第101条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が,意思の不存在,詐欺,強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。
 (2) 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が,意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。

(概要)

 本文(1)(2)は,民法第101条第1項の規定を,代理人の意思表示に関する部分と相手方の意思表示に関する部分とに分けて整理することにより,同項の規律の内容を明確にすることを意図するものである。古い判例には,代理人が相手方に対して詐欺をした場合における相手方の意思表示に関しても同項が適用されるとしたものがあるが(大判明治39年3月31日民録12輯492頁),これに対しては,端的に詐欺取消しに関する同法第96条第1項を適用すべきであるとの指摘がされている。本文(1)(2)のように同法第101条第1項の規律の内容を明確にすれば,代理人が相手方に対して詐欺をした場合における相手方の意思表示に関しては同項は適用されないことが明確になる(前記第3,3参照)。なお,意思能力に関する明文規定(前記第2参照)や動機の錯誤に関する明文規定(前記第3,2参照)等が設けられる際には,それらに相当する文言を本文(1)の「意思の不存在,詐欺,強迫」に追加することが考えられる。

赫メモ

 中間試案からの変更はない(中間試案概要参照)。

現行法

(代理行為の瑕疵)
第101条 意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=本人,B=代理人,C=相手方,D=第三者)
@ 【代理人による詐欺は本人が善意であっても取り消すことができる】大審院明治39年3月31日判決・民録12輯492頁
  Cは,Aの代理人Bから騙されて手形を詐取された。Cが取消しの意思表示をしたところ,Bが善意の第三者であるとして争った。
  民法101条は,意思表示が詐欺によって影響を受けるか否かは代理人において決するとしており,Bが詐欺行為をしている以上,Aはこの事実を知らなくても,Cは取り消すことができる。

B 【民法192条の善意無過失については,代理人について判断すべき】最高裁昭和47年11月21日判決・民集26巻9号1657頁
   C社は,A社に対して,Xに所有権が留保されている冷暖房機機器αを譲渡して引き渡した(C社がA社から請け負った住宅建築工事の履行としてαを住宅に設置して,A社に対して引き渡した)。
   民法192条の善意無過失は,法人については第一次的には代表機関について決すべきであるが,代理人により取引をしたときは,その代理人について判断すべきである。C社の代表取締役であるBがA社の代理人(肩書は専務取締役)として行動した余地がある以上,本件では善意取得が成立しない可能性がある。