債権法改正 要綱仮案 情報整理

第4 代理

7 代理権授与の表示による表見代理(民法第109条関係)

 民法第109条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。(民法第109条と同文)
(2) 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば(1)によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、当該行為について、その責任を負う。

中間試案

8 代理権授与の表示による表見代理(民法第109条関係)
  民法第109条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 本人が相手方に対して他人に代理権を与えた旨を表示した場合において,その他人がその表示された代理権の範囲内の行為をしたときは,本人は,当該行為について,その責任を負うものとする。ただし,相手方が,その他人がその表示された代理権を与えられていないことを知り,又は過失によって知らなかったときは,この限りでないものとする。
 (2) 上記(1)の他人がその表示された代理権の範囲外の行為をした場合において,相手方が当該行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときは,本人は,当該行為について,その責任を負うものとする。ただし,相手方が,その他人がその表示された代理権を与えられていないことを知り,又は過失によって知らなかったときは,この限りでないものとする。

(概要)

 本文(1)は,民法第109条の規律の内容を維持しつつ,同条の「第三者」という規定ぶり等をより明確に表現することを意図するものである。
 本文(2)は,民法第109条と同法第110条の重畳適用に関する規律を定めるものであり,判例法理(最判昭和45年7月28日民集24巻7号1203頁)を明文化するものである。

赫メモ

 要綱仮案(1)は、現行法109条と同じである。
 要綱仮案(2)は、中間試案(2)と同じである(中間試案概要の該当箇所参照)。

現行法

(代理権授与の表示による表見代理)
第109条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

(権限外の行為の表見代理)
第110条 前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=本人,B=代理人,C=相手方,D=第三者)
@ 【民法110条は,代理人がその代理権に関係ない行為をした場合にも適用がある】大審院昭和5年2月12日判決・民集9巻143頁
   Aの留守宅における家事その他の行為について代理権を付与されていたBが,Aの代理人として,Cに対して差し入れていた売渡担保物件を放棄する意思表示をした。
   いやしくもある代理権を有する者がなしたる行為である以上,たとえその行為と代理権との間になんらの関係も存しない場合であっても,なお110条の適用を妨げない。したがって,代理権を有する者が権限外の行為をした場合に,その行為が代理権となんらの関係を有しないという一事により直ちに本人に民法110条の責任なしと断ずるべきではない。

A 【白紙委任状の交付を受けた代理人がこれを利用して契約した場合,代理権の表示がある,とされた事例】最高裁昭和45年7月28日判決・民集24巻7号1203頁
   Aは,D代理人Bとの間で,Aが所有する山林を200万円で売却する契約を締結し,Dに対して,権利証,印鑑証明書,Aの記名押印があるがその余は白紙の売渡書及び委任状を交付した。Bは,これを利用して,Aの代理人として,Cとの間で,A所有の山林とD所有の山林を交換する契約を締結した。
   Bは,Aから上記書類を直接交付され,Aから信頼を受けた特定他人であって,Bにおいて上記書類をCに示してAの代理人として交換契約を締結した以上,Bに山林売渡の代理権を付与した旨表示したものというべきであり,Cにおいて,交換契約について代理権があると信じ,信じるべき正当事由があれば,民法109条,110条が適用される。