債権法改正 要綱仮案 情報整理

第4 代理

8 代理権消滅後の表見代理(民法第112条関係)

 民法第112条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
(2) 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば(1)によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、当該行為について、その責任を負う。

中間試案

10 代理権消滅後の表見代理(民法第112条関係)
  民法第112条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 代理人であった者が代理権の消滅後にその代理権の範囲内の行為をした場合において,相手方がその代理権の消滅の事実を知らなかったときは,本人は,当該行為について,その責任を負うものとする。ただし,相手方がその代理権の消滅の事実を知らなかったことにつき過失があったときは,この限りでないものとする。
 (2) 代理人であった者が代理権の消滅後にその代理権の範囲外の行為をした場合において,相手方が,その代理権の消滅の事実を知らず,かつ,当該行為についてその者の代理権があると信ずべき正当な理由があるときは,本人は,当該行為について,その責任を負うものとする。ただし,相手方がその代理権の消滅の事実を知らなかったことにつき過失があったときは,この限りでないものとする。

(概要)

 本文(1)は,民法第112条の規律の内容を維持しつつ,同条の「善意」の意味を明らかにするなど,その規律の内容を明確にすることを意図するものである。同条の「善意」の意味については,「代理行為の時に代理権が存在しなかったこと」についての善意ではなく,「過去に存在した代理権が代理行為の時までに消滅したこと」についての善意であると解すべきであるとの指摘があり,また,判例(最判昭和32年11月29日民集11巻12号1994頁,最判昭和44年7月25日集民96号407頁)もそのように解しているとの指摘があることから(部会資料29第3,2(3)アの補足説明[78頁]参照),後者の考え方を採ることを明確にしている。
 本文(2)は,民法第112条と同法第110条の重畳適用に関する規律を定めるものであり,判例法理(大連判昭和19年12月22日民集23巻626頁)を明文化するものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要と同旨である。規律表現の変更理由については、部会資料66A、29頁、部会資料79-3、3頁及び部会資料83-2、4頁参照。

現行法

(代理権消滅後の表見代理)
第112条 代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

(権限外の行為の表見代理)
第110条 前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=本人,B=代理人,C=相手方,D=第三者)
@ 【民法112条,110条の重畳適用を認めた判例】大審院昭和19年12月22日判決・民集23巻626頁
   Bは,Aの代理人として,Aの金融機関からの借入,保証を代理人として行っていたが,Cからの借入について,代理権が付与されていないにもかかわらずAの代理人として保証契約を締結した。
   民法112条は取引の安全を期した規定であり,従前の代理権の範囲を超える行為をした場合には,同じく取引の安全を期した規定である民法110条の双方の規定の精神により類推適用される。

A 【代理権消滅について善意無過失であることを理由として,民法112条を適用した事例】最高裁昭和32年11月29日判決・民集11巻12号1994頁
  Aの代理人Bは,従前Aの金策のために石炭を売却する代理権を付与されていたが,その代理権は消滅した。その後,Bは,Cとの間で,代理権が存続しているものとして,さらに,従前の代理権の範囲を超えて契約を締結した。
  Cは,Bの代理権の消滅について善意無過失であり,売買契約締結する権限があると信ずべき正当の事由を有していたのであるから,民法110条,112条の競合する場合に該当する。代理権の消滅後に代理人が代理人と称して,従前の代理権の範囲に属しない行為をした場合,代理権の消滅に善意無過失の相手方において,自称代理人の行為につきその権限があると信ずべき正当の事由を有するときは,本人の責任が生じる。

B 【なお代理権限があると信じていたことを理由として,民法112条を適用した事例】最高裁昭和44年7月25日判決・裁集民96号407頁
  Aの防府支店が廃止された後に,同支店の支店長であったB(支店長に就任中は請負契約締結の代理権あり)が,Cとの間で請負工事契約を締結した。
  民法112条の表見代理が成立するためには,相手方が代理権の消滅する前に代理人と取引をしたことがあることを要するものではなく,このような事実は,相手方の善意無過失を認定するための一資料にとどまる。
  原審は,一般に取引の相手方が本件代理権の存続を誤信するにいたるのが相当と思われる諸事実を認定し,Cは,請負契約を締結した際,なおAの防府支店長としてAを代理する権限があると信じていたものと認定されると判示して,表見代理の成立を肯定している。