債権法改正 要綱仮案 情報整理

第4 代理

9 無権代理人の責任(民法第117条関係)

 民法第117条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
(2) (1)は、次のいずれかに該当するときは、適用しない。
 ア 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
 イ 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
 ウ 他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったとき。

中間試案

11 無権代理人の責任(民法第117条関係)
  民法第117条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 他人の代理人として契約をした者は,その代理権を有していた場合又は本人の追認を得た場合を除き,相手方の選択に従い,相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負うものとする。
 (2) 上記(1)は,次のいずれかに該当する場合には,適用しないものとする。
  ア 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていた場合
  イ 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかった場合。ただし,他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを自ら知っていたときを除くものとする。
  ウ 他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知らなかった場合。ただし,重大な過失によって知らなかったときを除くものとする。
  エ 他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかった場合

(概要)

 本文(1)は,民法第117条第1項の規律の内容を維持しつつ,同項の「自己の代理権を証明することができず」という規定ぶり等をより明確に表現することを意図するものである。
 本文(2)アは,民法第117条第2項の規定のうち相手方が悪意である場合に関する部分を維持するものである。
 本文(2)イは,民法第117条第2項の規定のうち相手方に過失がある場合に関する部分を維持しつつ,これにただし書を付加して,相手方に過失がある場合でも,無権代理人自身が悪意であるときは,無権代理人の免責を否定する旨を新たに定めるものである。有力な学説を踏まえ,相手方と無権代理人との間の利益衡量をより柔軟にすることを意図するものである。
 本文(2)ウは,無権代理人が自己に代理権がないことを知らなかった場合の免責に関する規律を定めるものである。民法第117条第1項の無権代理人の責任は無過失責任とされているが,これに対しては,無権代理人が自己に代理権がないことを知らなくても常に責任を負うのでは無権代理人に酷な結果を生じかねないとの指摘がされている(例えば,代理行為の直前に本人が死亡したため無権代理となった場合等)。そこで,学説上のこのような指摘を踏まえ,錯誤に関する民法第95条の規定を参考にして新たな規律を定めることとするものである。
 本文(2)エは,民法第117条第2項の規定のうち代理人の行為能力に関する部分を維持するものである。

赫メモ

 要綱仮案(1)及び(2)ア・ウは、中間試案(1)及び(2)ア・エと同じである(中間試案概要の該当箇所参照)。
 要綱仮案によれば、@相手方善意有過失の場合でも、無権代理人が悪意のときは、無権代理人の責任が生じ、A相手方悪意の場合は、無権代理人が悪意でも無権代理人の責任は生じず、B相手方善意無過失のときは、無権代理人が善意無重過失でも(さらには無過失でも)、無権代理人の責任が生じることとなる(無権代理人の無過失責任)。このうち@は、現行法からの変更点である。また、Bは、中間試案からの変更点である(以上につき、部会資料66A、31頁参照)。

現行法

(無権代理人の責任)
第117条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=本人,B=代理人,C=相手方,D=第三者)
【民法117条の無権代理人の責任は,相手方の保護と代理制度の信用保持のための無過失責任制度である】最高裁昭和62年7月7日判決・民集41巻5号1133頁
  Aの妻Bが,Aの代理人として,Cとの間で保証契約を締結したところ,CがBに対して無権代理人の責任を追及した。
  民法117条による無権代理人の責任は,無権代理人が相手方に対して代理権がある旨を表示し自己を代理人であると信じさせるような行為をした事実を責任の根拠として,相手方の保護と取引安全,代理制度の信用保持のために,法律が特別に認めた無過失責任である。相手方において代理権のないことを知っていたとき,又は知らなかったことに過失があるときは,相手方が保護に値しないものとして,無権代理人の免責を認めたものである。