債権法改正 要綱仮案 情報整理

第5 無効及び取消し

3 取り消すことができる行為の追認(民法第124条関係)

 民法第124条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
(2) 次のいずれかに該当するときは、(1)の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。
 ア 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。
 イ 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。

中間試案

4 取り消すことができる行為の追認(民法第124条関係)
  民法第124条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 取り消すことができる行為の追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅し,かつ,追認権者が取消権を行使することができることを知った後にしなければ,その効力を生じないものとする。
 (2) 次に掲げるいずれかの場合には,上記(1)の追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しないものとする。
  ア 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合
  イ 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人,保佐人又は補助人の同意を得て追認をする場合

(概要)

 本文(1)は,取り消すことができる法律行為の追認をするには法律行為を取り消すことができるものであることを知ってする必要があるという判例法理(大判大正5年12月28日民録22輯2529頁)を明文化するため,民法第124条第1項に「追認権者が取消権を行使することができることを知った後」という要件を付け加えるものである。これに伴い,同条第2項が定める「行為能力者となった後にその行為を了知したとき」という要件は,本文(1)の要件と重複することとなるので,同条第2項を削除することとしている。
 この改正は,法定追認の要件にも影響を及ぼすものと考えられる。判例(大判大正12年6月11日民集2巻396頁)は,民法第125条の規定は取消権者が取消権の存否を知っていると否とを問わずその適用があるとしていたが,法定追認は同法第124条の規定により追認をすることができる時以後にする必要がある(同法第125条)とされているため,同法第124条を本文のように改正すると,この判例法理を変更することになる。
 本文(2)は,本文(1)の追認の要件のうち「取消しの原因となっていた状況が消滅した後」であることを要しない場合に関する規律であり,本文(2)アが現在の民法第124条第3項の規律内容を維持するものである。他方,同イは,制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人,保佐人又は補助人の同意を得て取り消すことができる行為の追認をすることができることは異論なく認められていることを踏まえて,このことを明文化するものである。いずれの場合でも,「追認権者が取消権を行使することができることを知った後」という要件は必要であることとしている。

赫メモ

 中間試案からの変更はない(中間試案概要参照)。

現行法

(追認の要件)
第124条 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。
2 成年被後見人は、行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追認をすることができない。
3 前二項の規定は、法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には、適用しない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=無効・取消しを主張する当事者,B=相手方)
@ 【追認をするには,法律行為を取り消すことができることを知り,取消権を放棄する意思があることが必要である】大審院大正5年12月28日判決・民録22輯2529頁
  Aは未成年時にBとの間で締結した売買契約について,成年に達した後に,債務を承認し示談の申込をした。
  取り消すことができる法律行為の追認は取消権の放棄を意味するものであるから,追認をするには,法律行為を取り消しうべきものであることを知り,かつ,取消権を放棄する意思あることを要することは明らかである。債務を承認し示談の申込をしたからといって直ちに追認したとは認められない。

A 【法定追認は,取消権があることを知らなくてした場合にも適用がある】大審院大正12年6月11日判決・民集2巻396頁
  Aは未成年時にBから金銭を借り入れたが,成年になって一部を弁済した後に,借入れを取り消した。
  法定追認は取消権が存在することを知らなくても適用される。なぜなら,民法125条に列挙された行為は,通常は取り消すことができる行為を有効に確定する意思なくしては存在しないから,これらの行為がなされた以上は追認したものとみなすことができるためである。