債権法改正 要綱仮案 情報整理

第6 条件及び期限

2 不正な条件成就

 不正な条件成就について、次のような規律を設けるものとする。
 条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件の成就を実現させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。

中間試案

1 条件
  条件に関する民法第127条から第134条までの規律は,基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。
 (2) 民法第130条の規律を次のように改めるものとする。
  ア 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が,条件を付した趣旨に反して故意にその条件の成就を妨げたときは,相手方は,その条件が成就したものとみなすことができるものとする。
  イ 条件が成就することによって利益を受ける当事者が,条件を付した趣旨に反して故意にその条件を成就させたときは,相手方は,その条件が成就しなかったものとみなすことができるものとする。

(概要)

 本文(2)アは,民法第130条の要件に,「条件を付した趣旨に反して」という文言を付加するものである。例えば,相手方が窃盗の被害に遭った場合には見舞金を贈与すると約束していた者が,相手方の住居に侵入しようとしている窃盗犯を発見して取り押さえたとしても,それをもって条件の成就を妨害したと評価するのは適当ではないところ,「故意に」というだけでは,こうした事例であっても要件を満たしてしまうことになってしまうという指摘があることを踏まえたものである。
 本文(2)イは,条件の成就によって利益を受ける当事者が故意にその条件を成就させたときは,民法第130条の類推適用により,相手方は,その条件が成就していないものとみなすことができるという判例法理(最判平成6年5月31日民集48巻4号10頁)を明文化するものである。もっとも,入試に合格するという条件を故意に成就させた場合のように,それだけでは何ら非難すべきでない場合があることから,本文(1)と同様に,「条件を付した趣旨に反して」という要件を付加している。

赫メモ

 要綱仮案は、民法130条の内容を維持したうえで、条件成就によって利益を受ける当事者が不正に条件成就させた場合に関する判例法理(最判平成6年5月31日)を明文化するものである。もっとも,入試に合格するという条件を故意に成就させた場合のように、それだけでは何ら非難すべきでない場合があることから、「故意に」に代えて「不正に」の用語が採用された。中間試案の表現からの変更理由については、部会資料79-3、6頁参照。

現行法

(条件の成就の妨害)
第130条 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=条件成就により利益を得る当事者,B=相手方)
@ 【故意による条件成就と認定された事例】最高裁昭和45年10月22日判決・民集24巻11号1599頁
  Bは,仲介業者Aに対して不動産の仲介を委託し,Aが売主Cを探してきたところ,BC間で売買契約が成立する直前に,Aを排除して,BC間で直接契約した。
  BC間で成立した売買契約は,成立の時期においてAの仲介あっせん活動と時期を接しているのみならず,売買価格においても仲介活動によりあとわずかの差を残すのみで間もなく合意に達すべき状態であったところ,AB間で下相談した価格を上回る価格で成立しているのであるから,BCは,Aの仲介によって間もなく契約の成立に至るべきことを熟知しながら,Aの仲介による契約の成立を避けるために直接契約当事者間で契約を成立させたものであり,故意があった。

A 【条件成就により利益を受ける当事者が故意に条件を成就させた場合には,民法130条の類推により,相手方は条件不成就とみなすことができる】最高裁平成6年5月31日判決・民集48巻4号1029頁
  AB間において,Bが櫛歯ピン付かつらを製造しないこと,製造すれば1000万円を支払うことを合意する和解が成立した。Aは,客を装ってBの店舗に行き,かつらの製造を依頼し,最後になって櫛歯ピンのようなものを付けてくれと言い,Bはやむなく櫛歯ピンを付けたかつらを提供した。
  Aは,和解条項違反の有無を調査する範囲を超えて,積極的にBに対して和解条項に違反するように誘引しており,条件成就により利益を受ける当事者であるAが故意に条件を成就させたというべきであるから,民法130条の類推適用により,Bは条件が成就していないとみなすことができる。

B 【民法130条が適用されうるとされた事例】最高裁平成18年12月14日判決・民集60巻10号3914頁
  B銀行がCに対して販売した投資信託について,Cの債権者であるAが,B銀行において投資信託の委託者D(銀行系の資産運用会社)から一部解約金の交付を受けることを条件として効力が生じる一部解約金支払請求権を差し押さえて,B銀行に対して,解約権を行使した。
  Dは,解約実行請求があった場合には,Cに対し一部解約を実行して一部解約金を支払う義務を負っているが,B銀行が通知をしなければ,Dによる一部解約の実行及び一部解約金のB銀行への交付によって上記条件が成就することはなく,B銀行はAに対して一部解約金の支払義務を負わないことになるというべきであるから,B銀行が上記通知をしないことについて民法130条所定の要件が充足されるのであれば,同条により前記条件が成就したものとみなされ,B銀行は,Aに対して解約実行請求に基づく一部解約金の支払義務を負う余地がある。