債権法改正 要綱仮案 情報整理

第7 消滅時効

4 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条関係)

 民法第724条の規律を次のように改めるものとする。
 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合のいずれかに該当するときは、時効によって消滅する。
(1) 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
(2) 不法行為の時から20年間行使しないとき。

中間試案

4 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条関係)
  民法第724条の規律を改め,不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合のいずれかに該当するときは,時効によって消滅するものとする。
 (1) 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき
 (2) 不法行為の時から20年間行使しないとき

(概要)

 民法第724条後段の不法行為の時から20年という期間制限に関して,中断や停止の認められない除斥期間であるとした判例(最判平成元年12月21日民集43巻12号2209頁)とは異なり,同条後段も同条前段と同様に時効期間についての規律であることを明らかにするものである。上記判例のような立場に対して,被害者救済の観点から問題があるとの指摘があり,停止に関する規定の法意を援用して被害者の救済を図った判例(最判平成21年4月28日民集63巻4号853頁)も現れていることを考慮したものである。除斥期間ではないことを表すために,同条後段の「同様とする」という表現を用いない書き方を提示しているが,これはあくまで一例を示したものである。

赫メモ

 中間試案と同じである(中間試案概要、参照)。

現行法

(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,時効を援用する当事者,B=債権者)
@ 【民法724条後段の期間は除斥期間である】最高裁平成1年12月21日判決・民集43巻12号2209頁
  昭和24年にA(国)が不発弾の処理をしていたところこれが爆発し,Bらが重傷を負った。Bが国賠訴訟を提訴したのは昭和52年であった。
  民法724条後段の規定は,不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当である。なぜなら,同条がその前段で3年の短期の時効について規定し,更に同条後段で20年の長期の時効を規定していると解することは,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の規定の趣旨に沿わず,むしろ同条前段の3年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主観的な事情によってその完成が左右されるが,同条後段の20年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである。Bらの請求権は,すでに本訴提起前の20年の除斥期間が経過した時点で法律上当然に消滅したことになり,請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても,期間の経過により請求権が消滅したものと判断すべきであり,Bら主張に係る信義則違反又は権利濫用の主張は,主張自体失当であって採用の限りではない。

A 【20年の除斥期間に対する民法158条の適用】最高裁平成10年6月12日判決・民集52巻4号1087頁
  昭和27年に出生した子に痘そうの予防接種をしたところ高度の精神障害となり寝たきり状態となった。成年後見人が就任したのは昭和59年でその後訴訟委任した。
  心神喪失の常況が当該不法行為に起因する場合,被害者やおよそ権利行使が不可能であるのに,単に20年が経過したということのみをもって一切の権利行使が許されないこととなる半面,心神喪失の原因を与えた被害者は責任を免れる結果となるが,このような状況は著しく正義・公平の理念に反する。不法行為の時から20年が経過する6カ月以内に法定代理人がおらず,成年後見を受け後見人に就任した者が就任時から6カ月以内に損害賠償請求権を行使した場合,民法158条の法意に照らして,724条後段の効果は生じない。

B 【20年の除斥期間に対する民法160条の適用】最高裁平成21年4月28日判決・民集63巻4号853頁
  昭和57年,BがA´を殺害し,死体を自宅の床下に隠していたが,平成16年に死体が発見され,Aが平成17年提訴した。
  被害者を殺害した加害者が,被害者の死亡の事実を知りえない状況を作出し,そのために相続人はその事実を知りえないまま除斥期間が経過した場合に,殺害の時から20年が経過した場合に,相続人は一切の権利行使ができず,原因を作った加害者は損害賠償請求を免れるというのでは,著しく正義・公平の理念に反する。不法行為の時から20年が経過した場合で,その後相続人が確定した時から6カ月以内に相続人が損害賠償請求権を行使したときは,民法160条の法意に照らして,724条後段の効果は生じない。

C 【不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合,20年の不法行為の除斥期間の起算点は,損害の全部又は一部が発生した時である】最高裁平成16年4月27日判決・民集58巻4号1032頁
  肺胞内に取り込まれた粉じんが,長期間にわたり線維増殖性変化を進行させ,じん肺結節等の病変を生じさせ,粉じんへの暴露が終わった後,相当長期間経過後に発症することも少なくないじん肺の場合,20年の除斥期間の起算点はじん肺に関する最終の管理区分決定時。
  身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合,除斥期間の起算点は,損害の全部又は一部が発生した時とすべきである。なぜなら,損害の発生を待たずに除斥期間の進行を認めることは,被害者にとって著しく酷であるし,また,加害者としても,自己の行為により生じ得る損害の性質からみて,相当の期間が経過した後に被害者が現れて,損害賠償の請求を受けることを予期すべきであると考えられる。

D 【同上】最高裁平成16年10月15日判決・民集58巻7号1802頁
  メチル水銀化合物で汚染された魚介類の摂取をやめてから潜伏期間が経過した後に症状が現れるいわゆる遅発性水俣病で,水俣湾又はその周辺海域の魚介類の摂取を中止してから4年以内に症状が客観的に現れる水俣病の場合,除斥期間の起算点は,水俣湾周辺地域から転居して4年経過した時。

E 【同上】最高裁平成18年6月16日判決・民集60巻5号1997頁
  予防接種により乳幼児期にB型肝炎ウィルスに感染し,持続感染者となった場合で,セロコンバージョン(注 陽性抗体への変換のこと)が起きることなく,成人期(20〜30代)に入ると,発症することがあるB型肝炎の場合,除斥期間の起算点は,B型肝炎の発症時。